転生アラサー腐女子はモブですから!?
愛と嫉妬
「ここ……、何処かしら?――――っ、うぅぅ……」
目を覚ましたアイシャは、上体を起こそうとして身動いだ途端、走った激痛に呻き声を上げた。痛みに耐え、そっと右手を見れば、包帯が巻かれている。
(あぁ、町でゴロツキに襲われて、リアムに助けられたのよね)
アイシャの脳裏に、リアムの姿が浮かび、勝手に涙があふれ、落ちていく。危険を顧みず、自分を助けてくれたリアム。今でも、彼の温もりを覚えている。
『アイシャ、愛している』
あの言葉を思い出すたびに、心の奥底に閉まったはずの想いがあふれ出す。リアムが紡いでくれた真摯な言葉の数々が、冷え切った心を温めてくれる。
嬉しかった。本当に嬉しかったのだ。
(リアムは、愛していると言ってくれた。今でも、私との結婚を考えていると)
ただ、リアムの手を取ることだけは、出来なかった。
リアムが、アイシャと結婚するためにノア王太子と密約を結び、ドンファン伯爵家の闇を暴くためグレイスと婚約したと知ったアイシャだったが、リアムに裏切られ、捨てられたと思い込んだ心の傷は、想像以上に深かった。
そして、あの夜見てしまったグレイスとリアムとのキスシーンがアイシャの頭を巡り、ドス黒い嫉妬の炎が心を焼き尽くし、リアムの手を取ることを身体が拒否した。
(結局、今でもリアムのことを愛しているのよ。リアムが他の女とキスするのが許せないほどには、彼を愛している)
だからこそ怖い。彼の手を取り、また捨てられる事態となれば、今度こそ立ち直れない。
「はぁぁ……、考えるのを止めよう。そんなことより、本当に此処どこなの?」
傷ついた右手に気をつけながら、アイシャは上体を起こし、辺りを見回す。
柔らかなベッドから見える窓には、厚手のカーテンがひかれ、外の様子はおろか、今が夜なのか、朝なのかも分からない。それでも、置かれた家具を見れば、この部屋が女性用に設られた寝室だということはわかる。花模様のベッドカバーは女性が好みそうなデザインだし、サイドテーブルには、可愛らしいテーブルランプが置かれている。そして、少し離れたところには、一人掛けのソファが置かれていた。
「あっ!! 私の短剣………」
サイドテーブルの上に置かれた短剣を見つけたアイシャは、痛みのない手を伸ばし、それを手に取る。鞘に収められた短剣は、装飾もされておらず、令嬢が持つには無骨な印象だ。だが、アイシャはこの短剣を、肌身離さず持ち続けてきた。アイシャにとって、この短剣は、命と同じくらい大切なもの。
あの時、最後に短剣を持っていたのはリアムだった。これがなければ、アイシャの命は無かった。ゴロツキにズタズタにされて、死んでいたかもしれない。
リアムにもらった短剣。
「これだけは、手放せそうにないわね……」
短剣を胸に抱き、瞳を閉じる。そして、止め処なく流れる涙を感じながら、アイシャはいつしか眠りに落ちた。
目を覚ましたアイシャは、上体を起こそうとして身動いだ途端、走った激痛に呻き声を上げた。痛みに耐え、そっと右手を見れば、包帯が巻かれている。
(あぁ、町でゴロツキに襲われて、リアムに助けられたのよね)
アイシャの脳裏に、リアムの姿が浮かび、勝手に涙があふれ、落ちていく。危険を顧みず、自分を助けてくれたリアム。今でも、彼の温もりを覚えている。
『アイシャ、愛している』
あの言葉を思い出すたびに、心の奥底に閉まったはずの想いがあふれ出す。リアムが紡いでくれた真摯な言葉の数々が、冷え切った心を温めてくれる。
嬉しかった。本当に嬉しかったのだ。
(リアムは、愛していると言ってくれた。今でも、私との結婚を考えていると)
ただ、リアムの手を取ることだけは、出来なかった。
リアムが、アイシャと結婚するためにノア王太子と密約を結び、ドンファン伯爵家の闇を暴くためグレイスと婚約したと知ったアイシャだったが、リアムに裏切られ、捨てられたと思い込んだ心の傷は、想像以上に深かった。
そして、あの夜見てしまったグレイスとリアムとのキスシーンがアイシャの頭を巡り、ドス黒い嫉妬の炎が心を焼き尽くし、リアムの手を取ることを身体が拒否した。
(結局、今でもリアムのことを愛しているのよ。リアムが他の女とキスするのが許せないほどには、彼を愛している)
だからこそ怖い。彼の手を取り、また捨てられる事態となれば、今度こそ立ち直れない。
「はぁぁ……、考えるのを止めよう。そんなことより、本当に此処どこなの?」
傷ついた右手に気をつけながら、アイシャは上体を起こし、辺りを見回す。
柔らかなベッドから見える窓には、厚手のカーテンがひかれ、外の様子はおろか、今が夜なのか、朝なのかも分からない。それでも、置かれた家具を見れば、この部屋が女性用に設られた寝室だということはわかる。花模様のベッドカバーは女性が好みそうなデザインだし、サイドテーブルには、可愛らしいテーブルランプが置かれている。そして、少し離れたところには、一人掛けのソファが置かれていた。
「あっ!! 私の短剣………」
サイドテーブルの上に置かれた短剣を見つけたアイシャは、痛みのない手を伸ばし、それを手に取る。鞘に収められた短剣は、装飾もされておらず、令嬢が持つには無骨な印象だ。だが、アイシャはこの短剣を、肌身離さず持ち続けてきた。アイシャにとって、この短剣は、命と同じくらい大切なもの。
あの時、最後に短剣を持っていたのはリアムだった。これがなければ、アイシャの命は無かった。ゴロツキにズタズタにされて、死んでいたかもしれない。
リアムにもらった短剣。
「これだけは、手放せそうにないわね……」
短剣を胸に抱き、瞳を閉じる。そして、止め処なく流れる涙を感じながら、アイシャはいつしか眠りに落ちた。