転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アイシャ、真剣に聞いて欲しい。貴方の心にリアムが居るのは分かっている。しかし、俺はどうしても貴方を諦める事なんて出来ない。今は、リアムの身代わりだって構わない。いつか貴方はリアムを忘れられる日が来る。いや、俺が忘れさせる。これからの人生、俺と歩む道を真剣に考えて欲しい」

 目の前に跪き、自分を見つめるキースの熱い眼差しに囚われ、身動きが取れない。キュッと握られた左手から伝わる熱が全身を巡り、アイシャから言葉を奪う。真剣な眼差しを向けるキースを、ただ見つめることしか出来ない。

「リアムのことで悲しむ貴方をもう見ていたくない。俺の側で笑うアイシャをずっと見ていたいんだ。もう貴方を一人で悲しませたりしない。俺がずっと側にいる。――――アイシャ、結婚して欲しい」

 キースに握られた左手の薬指に、ゆっくりと指輪が通され、キスが落とされる。

 見事なブルーサファイアを中心に左右に小さなアクアマリンの石が配されたシルバーの指輪。キースの瞳の色とアイシャの瞳の色が配された指輪。その指輪の意味をアイシャは知っている。

『誓いの指輪』

 結婚を約束した婚約者へと最後に贈る指輪。男性側の瞳の色の宝石を配した指輪を女性側が受け取る行為は、貴方との結婚を承諾したという意味になる。
 
 エイデン王国では、結婚の最終判断は女性に委ねられる。『誓いの指輪』を受け取らなければ、結婚を承諾した事にはならない。しかし、この指輪を受け取ってしまえば、滅多な事がない限り、結婚を反故には出来ない。それ程、重要な指輪なのだ。

 左手の薬指でキラキラと輝く青い石に、己の顔が写り、心が揺れ動く。心の奥底に閉じ込めたはずの淡い想いが、キースの手を取ることをためらわせ、頭を混乱させる。

『誓いの指輪』にキスを落とせば、了承の意になることもわかっている。

 このままキースと結婚する未来。

(リアムを忘れられる日は、本当に来るのだろうか?)

 そんな疑問が頭の中をクルクルと回り、身動きが取れない。

 キースと過ごした日々は、幸せに満ちていた。自分のことを一番に優先してくれるキース。ナイトレイ侯爵家へ来てからというもの、鬱々とした日々が嘘だったかのように楽しい毎日だった。彼の紡ぐ言葉に嘘、偽りはない。リアムに裏切られた心を癒せたのはキースが、ずっと側にいてくれたから。

 彼との結婚生活は、きっと幸せに満ちている。そして、ナイトレイ侯爵家の皆様にも結婚を歓迎されている今、何をためらう必要があるのだろうか。

(リアムは私を裏切り、苦しめた男よ! キースと幸せな家庭を築こう。楽しくて、笑いの絶えない家庭を……)

 きっと忘れられる。きっと…………

 アイシャは、握られていた左手の薬指へと唇を持っていき、青く輝く『誓いの指輪』へとキスを落とした。
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