転生アラサー腐女子はモブですから!?
幕間
ウェスト侯爵家【リアム視点】
――――あの時。
キースがアイシャに吹っ飛ばされた時、確かに短剣の先が青白く光っていた。
(白き魔女か……)
まさか、あの遺言の通りに『白き魔女』が復活するとは思っていなかった。
アイシャとキースの力の差は歴然。何かの力が働かない限り、キースが吹っ飛ばされるなど考えられない。アイシャが白き魔女として復活したのは間違いないだろう。
ただの御伽噺だと馬鹿にしていた話が頭を巡る。
ウェスト侯爵家は、『白き魔女』の片翼である。
魔法という概念が消え失せてからすでに数百年、この国で魔法を扱える者は誰もいない。
魔法とは血で生み出すものである。かつて他と隔絶する事で魔法を生み出す力を残そうとした家があった。
『リンベル伯爵家』
この家こそ魔女の血筋を持つ唯一の家となる。いつしかこの家から生まれる魔女を『白き魔女』と言うようになった。しかし近親婚を繰り返したためか、いつしか子の数は減り、断絶の危機に立たされた。その時、二つの家が救いの手を差し伸べる。
『知の名家ウェスト侯爵家』と『武の名家ナイトレイ侯爵家』
当時、リンベル伯爵家にはひとり娘がいた。この娘は、ウェスト侯爵とナイトレイ侯爵の息子達と契り三人の子を成したという。二人の息子はそれぞれの侯爵家を継ぎ、最後に生まれし娘がこの国の最後の魔女となる。
最後の白き魔女は巨大な魔力を有していた。
最後の白き魔女が有していた力こそ、未来を見通す力『さきよみの力』だった。
『リンベル伯爵家の血筋より生まれる女児に、いつか白き魔女が生まれる』
この言葉を残し、最後の白き魔女はこの世を去った。
この事実を知る者は王家とリンベル伯爵家、そして『白き魔女』の片翼であるウェスト侯爵家とナイトレイ侯爵家のみである。そのため『古の契約』にのっとり、ウェスト侯爵家は、リンベル伯爵家に娘が誕生すれば婚約者候補となり、『白き魔女』が復活した場合、すぐに対処出来るよう暗躍して来た。
しかし、最後の白き魔女がこの世を去ってから数百年、『白き魔女』としての力を持つ娘は、一人として現れなかった。
魔女としての力が復活するのは十八歳まで。
成人前の汚れなき魂を持つ少女期に魔力が発動すると言われている。そのため、白き魔女の存在を知る二家はリンベル伯爵家の娘が十八歳の誕生日を迎えるまで婚約者を選べない。
(アイシャはもうすぐ十七歳。伝承の通りだな……)
あの力は、『白き魔女』が復活したと見て間違いないだろう。もうすぐアイシャ争奪戦が始まる。
「失礼致します。父上に急ぎお伝えしたい事がございます」
アイシャと別れ、急ぎウェスト侯爵家に戻ったリアムは、その足で父の執務室へ向かった。入室の許可を受け、部屋へと入ればこちらに背を向け、窓際に立つ父の姿が目に入る。
意を決し直談判をしてから数年、リアムと父の関係も大きく変わった。剣を続ける一方、勉学にも本気で取り組んだリアムは、実力を認められ、三年前から父の指示でウェスト侯爵家の暗部を仕切っている。今では暗部を使いあらゆる情報を収集し、暗躍するウェスト公爵家の諜報部隊の長をリアムは担っている。
「リンベル伯爵家のアイシャ嬢ですが、『白き魔女』の力を復活させました」
「なに!? それは誠か?」
「はい。この目でしかと見ましたから」
「そうか……、やはり情報は正しかったか」
父の言葉にリアムの片眉が上がる。
暗部を任されていようとも、父の握る情報はリアムの持つ情報をはるかに超える。アイシャの情報をすでに掴んでいる可能性も考えていたが、誤魔化しは通用しないということだ。
(相変わらず、情報が早い。私も、まだまだということか)
「ご存じでしたか。では、アイシャがどのように『白き魔女』の力を発動したかもご存じですね。では、詳細は省きます。最悪なことに、あの場には王家の子飼いとナイトレイ侯爵家のキースとルイス様も居ました。おそらく気づいたでしょう」
「厄介だなぁ……、出遅れるわけにはいかんな。リアム、お前とアイシャ嬢との関係はどうなっておる?」
「キースより一歩リードというところですかねぇ」
医務室から聞こえたアイシャの大絶叫を思い出し、苦笑が漏れる。
(本当に鈍感なお姫さまだ。一歩リードかどうかも怪しいな)
「必ずやアイシャ嬢を手に入れなければならない。リアムわかっているな!」
「えぇ。もちろん、必ず手に入れますよ」
アイシャはリアムにとって特別な存在だ。白き魔女だろうと無かろうと関係ない。アイシャだからこそ、手に入れたいと思える存在なのだ。
キース、ノア王太子……
キースのアイシャに対する見方は大きく変わる。憎悪が愛に変わるのも時間の問題か。
そして、もう一人。ノア王太子の存在が、不気味でならない。
王家は『魔女』を搾取した過去の過ちから、『古の契約』により『白き魔女』を娶ることは出来ない。つまりは、ノア王太子は、どう足掻いてもアイシャを伴侶にすることは出来ないのだ。
では、なぜノア王太子は未だに婚約者を決めない。
核心にも似た考えが、頭を巡り心をざわつかせる。
「父上、王家は『古の契約』にのっとり、このまま『保護』の立場に甘んじると思いますか?」
「それは、わからぬ。国民誰しもが知る『白き魔女』の伝承が厄介だな」
「『白き魔女の恩恵を受けし伴侶は世界の覇者となる』という、あの伝承ですね」
「あぁ、あの伝承の認識が、過去と現在で違っていようとも、その伝承を利用すれば、ノア王太子の治世は盤石なものになる。王家は、是が非にも『白き魔女』をノア王太子の伴侶に欲するだろう」
「厄介ですね。せめてもの救いが、伴侶を選ぶ権利がリンベル伯爵家側にあることでしょうか」
「ははっ、お前は本気でそう思っているのか? リンベル伯爵家側にあるということは、裏を返せば、アイシャ嬢がノア王太子を選びさえすれば、『古の契約』など無効にできると言うことなのだぞ」
父の言葉にハッとする。
「つまりは、王家はそれを逆手にとり、アイシャ争奪戦に参戦してくると」
「だろうな。『古の契約』の最大の欠点、いいやリンベル伯爵家には最大の利点になるか……、それは『白き魔女』の意思が最優先されると言うことだ。『白き魔女』は、誰を伴侶に選んでもよい。過去、契りを交わした二家から伴侶を選ぶ必要はないのだからな」
だからこそ、王家はノア王太子の婚約者を未だに決めていない。
『白き魔女』を手に入れる、その時のために――――
(ノア王太子か……、腹の中真っ黒な策士を相手にするのは至難の技だな)
ニヤリと笑みを浮かべるノア王太子の顔が脳裏を過ぎり、嫌な気分となる。
(あの鈍感令嬢は全く気づいていないが、ノア王太子もアイシャに惹かれている。俺の存在を意識し出した今がチャンスだが……)
王家とナイトレイ侯爵家が黙っていないだろう。あの二人を出し抜き、アイシャを手に入れるのは前途多難だ。
アイシャの輝く笑顔を脳裏に浮かべたリアムは大きなため息をつく。
あの笑顔が曇る未来だけは、絶対に阻止する。
熱い誓いを胸に、父の執務室を後にしたリアムは、私室へと向け歩き出した。
キースがアイシャに吹っ飛ばされた時、確かに短剣の先が青白く光っていた。
(白き魔女か……)
まさか、あの遺言の通りに『白き魔女』が復活するとは思っていなかった。
アイシャとキースの力の差は歴然。何かの力が働かない限り、キースが吹っ飛ばされるなど考えられない。アイシャが白き魔女として復活したのは間違いないだろう。
ただの御伽噺だと馬鹿にしていた話が頭を巡る。
ウェスト侯爵家は、『白き魔女』の片翼である。
魔法という概念が消え失せてからすでに数百年、この国で魔法を扱える者は誰もいない。
魔法とは血で生み出すものである。かつて他と隔絶する事で魔法を生み出す力を残そうとした家があった。
『リンベル伯爵家』
この家こそ魔女の血筋を持つ唯一の家となる。いつしかこの家から生まれる魔女を『白き魔女』と言うようになった。しかし近親婚を繰り返したためか、いつしか子の数は減り、断絶の危機に立たされた。その時、二つの家が救いの手を差し伸べる。
『知の名家ウェスト侯爵家』と『武の名家ナイトレイ侯爵家』
当時、リンベル伯爵家にはひとり娘がいた。この娘は、ウェスト侯爵とナイトレイ侯爵の息子達と契り三人の子を成したという。二人の息子はそれぞれの侯爵家を継ぎ、最後に生まれし娘がこの国の最後の魔女となる。
最後の白き魔女は巨大な魔力を有していた。
最後の白き魔女が有していた力こそ、未来を見通す力『さきよみの力』だった。
『リンベル伯爵家の血筋より生まれる女児に、いつか白き魔女が生まれる』
この言葉を残し、最後の白き魔女はこの世を去った。
この事実を知る者は王家とリンベル伯爵家、そして『白き魔女』の片翼であるウェスト侯爵家とナイトレイ侯爵家のみである。そのため『古の契約』にのっとり、ウェスト侯爵家は、リンベル伯爵家に娘が誕生すれば婚約者候補となり、『白き魔女』が復活した場合、すぐに対処出来るよう暗躍して来た。
しかし、最後の白き魔女がこの世を去ってから数百年、『白き魔女』としての力を持つ娘は、一人として現れなかった。
魔女としての力が復活するのは十八歳まで。
成人前の汚れなき魂を持つ少女期に魔力が発動すると言われている。そのため、白き魔女の存在を知る二家はリンベル伯爵家の娘が十八歳の誕生日を迎えるまで婚約者を選べない。
(アイシャはもうすぐ十七歳。伝承の通りだな……)
あの力は、『白き魔女』が復活したと見て間違いないだろう。もうすぐアイシャ争奪戦が始まる。
「失礼致します。父上に急ぎお伝えしたい事がございます」
アイシャと別れ、急ぎウェスト侯爵家に戻ったリアムは、その足で父の執務室へ向かった。入室の許可を受け、部屋へと入ればこちらに背を向け、窓際に立つ父の姿が目に入る。
意を決し直談判をしてから数年、リアムと父の関係も大きく変わった。剣を続ける一方、勉学にも本気で取り組んだリアムは、実力を認められ、三年前から父の指示でウェスト侯爵家の暗部を仕切っている。今では暗部を使いあらゆる情報を収集し、暗躍するウェスト公爵家の諜報部隊の長をリアムは担っている。
「リンベル伯爵家のアイシャ嬢ですが、『白き魔女』の力を復活させました」
「なに!? それは誠か?」
「はい。この目でしかと見ましたから」
「そうか……、やはり情報は正しかったか」
父の言葉にリアムの片眉が上がる。
暗部を任されていようとも、父の握る情報はリアムの持つ情報をはるかに超える。アイシャの情報をすでに掴んでいる可能性も考えていたが、誤魔化しは通用しないということだ。
(相変わらず、情報が早い。私も、まだまだということか)
「ご存じでしたか。では、アイシャがどのように『白き魔女』の力を発動したかもご存じですね。では、詳細は省きます。最悪なことに、あの場には王家の子飼いとナイトレイ侯爵家のキースとルイス様も居ました。おそらく気づいたでしょう」
「厄介だなぁ……、出遅れるわけにはいかんな。リアム、お前とアイシャ嬢との関係はどうなっておる?」
「キースより一歩リードというところですかねぇ」
医務室から聞こえたアイシャの大絶叫を思い出し、苦笑が漏れる。
(本当に鈍感なお姫さまだ。一歩リードかどうかも怪しいな)
「必ずやアイシャ嬢を手に入れなければならない。リアムわかっているな!」
「えぇ。もちろん、必ず手に入れますよ」
アイシャはリアムにとって特別な存在だ。白き魔女だろうと無かろうと関係ない。アイシャだからこそ、手に入れたいと思える存在なのだ。
キース、ノア王太子……
キースのアイシャに対する見方は大きく変わる。憎悪が愛に変わるのも時間の問題か。
そして、もう一人。ノア王太子の存在が、不気味でならない。
王家は『魔女』を搾取した過去の過ちから、『古の契約』により『白き魔女』を娶ることは出来ない。つまりは、ノア王太子は、どう足掻いてもアイシャを伴侶にすることは出来ないのだ。
では、なぜノア王太子は未だに婚約者を決めない。
核心にも似た考えが、頭を巡り心をざわつかせる。
「父上、王家は『古の契約』にのっとり、このまま『保護』の立場に甘んじると思いますか?」
「それは、わからぬ。国民誰しもが知る『白き魔女』の伝承が厄介だな」
「『白き魔女の恩恵を受けし伴侶は世界の覇者となる』という、あの伝承ですね」
「あぁ、あの伝承の認識が、過去と現在で違っていようとも、その伝承を利用すれば、ノア王太子の治世は盤石なものになる。王家は、是が非にも『白き魔女』をノア王太子の伴侶に欲するだろう」
「厄介ですね。せめてもの救いが、伴侶を選ぶ権利がリンベル伯爵家側にあることでしょうか」
「ははっ、お前は本気でそう思っているのか? リンベル伯爵家側にあるということは、裏を返せば、アイシャ嬢がノア王太子を選びさえすれば、『古の契約』など無効にできると言うことなのだぞ」
父の言葉にハッとする。
「つまりは、王家はそれを逆手にとり、アイシャ争奪戦に参戦してくると」
「だろうな。『古の契約』の最大の欠点、いいやリンベル伯爵家には最大の利点になるか……、それは『白き魔女』の意思が最優先されると言うことだ。『白き魔女』は、誰を伴侶に選んでもよい。過去、契りを交わした二家から伴侶を選ぶ必要はないのだからな」
だからこそ、王家はノア王太子の婚約者を未だに決めていない。
『白き魔女』を手に入れる、その時のために――――
(ノア王太子か……、腹の中真っ黒な策士を相手にするのは至難の技だな)
ニヤリと笑みを浮かべるノア王太子の顔が脳裏を過ぎり、嫌な気分となる。
(あの鈍感令嬢は全く気づいていないが、ノア王太子もアイシャに惹かれている。俺の存在を意識し出した今がチャンスだが……)
王家とナイトレイ侯爵家が黙っていないだろう。あの二人を出し抜き、アイシャを手に入れるのは前途多難だ。
アイシャの輝く笑顔を脳裏に浮かべたリアムは大きなため息をつく。
あの笑顔が曇る未来だけは、絶対に阻止する。
熱い誓いを胸に、父の執務室を後にしたリアムは、私室へと向け歩き出した。