転生アラサー腐女子はモブですから!?
 ひとしきり泣きじゃくって落ち着きを取り戻したアイシャは、真っ赤に目を腫らし、リンベル伯爵家の廊下を私室へと向け歩く。

『さて、使えるものは、権力でも財力でも何でも使って婚約話をなかった事にしましょう。ふふふ、こんな時、王妃の妹で、公爵家出身で良かったと思うわ』

 母は、あぁ言っていたが今さら婚約話を断る事なんて出来るのだろうか?

 それにキースにも申し訳ない。

 誠心誠意謝る他ない。他人任せではダメだ。自分の心の弱さが招いた事なのだから、責任は自分で取らなければならない。

 結局、家族にも迷惑をかけてしまった。

 とにかく明日、朝一でナイトレイ侯爵家へ向かい、自分の正直な気持ちをキースに伝えよう。

 それでダメなら、甘んじて罰を受けよう。それがせめてもの償いになるのなら……

 私室の扉を開け、部屋へと入ったアイシャは、ソファへと向かう。キースから貰った婚約指輪を見つめ、そっと指から外し、ジュエリーケースの中へと収める。

 これも返さなきゃね。

 指に馴染んだ指輪を外すのは、ちょっぴり寂しい気もするが……、そんな気持ちを隠すように、アイシャはソファから立ち上がると、ジュエリーケースを手に持ち、机へと向かう。そして、気づいた。物書き机の上に見慣れないピンク色の封筒が置かれている。

 手紙? 何かしら?

 アイシャはピンク色の封筒を手に取り封を開けると、中の手紙を取り出した。

『初めましてかしら? わたくし、ドンファン伯爵家のグレイスと申します。貴方の大切な殿方の婚約者と言えば、おわかりになるかしら。わたくし、とても傷つきましたの。婚約者のリアム様と貴方が恋仲だったなんて。ひどい仕打ちだと思いません? わたくしと婚約しておきながら他の女を愛していたなんて……
だから、憎い貴方にゲームを仕掛ける事にしましたのよ。貴方一人で、街の外れにある朽ち果てた屋敷にいらっしゃいな。貴方は、リアム様が死ぬ前に屋敷に到着することが出来るかしら? この手紙を貴方が読む頃には、リアム様は死にかけているかもしれませんわね。屋敷でお待ちしております』

 手紙がヒラヒラと舞い、床に落ちる。

 リアムが死ぬ……

 クレア王女の言葉が、クルクルと頭を巡り、アイシャは力なくその場へと崩折れた。

『アイシャよく聞いて! 例え、リアムが危険に晒される事になったとしても、助けに行かないで』

 乙女ゲームに存在しない『アイシャ』は、この世界から淘汰される運命なのだろう。

 これが乙女ゲームの矯正力なのかもしれない……
< 213 / 233 >

この作品をシェア

pagetop