転生アラサー腐女子はモブですから!?
リンベル伯爵邸の門扉をくぐり、厩番に愛馬を渡すと、その足でエントランスへと向かう。勝手知ったる伯爵邸だ。いつものように取り次ぎを頼むことなくエントランスへと歩みを進め、邸内へと入って直ぐ、異変に気づいた。
何かあったのか?
エントランスの扉は開け放たれ、ひっきりなしに使用人がバタバタと動き回っている。
こんなに騒がしいリンベル伯爵邸は見たことがなかった。本来であれば、キースがエントランスへと現れれば、すぐに家令が現れ、アイシャの元へと案内をしてくれる。しかし、今は、誰一人として、キースの来客に気づく者がいない。いいや、気づいているのかもしれないが、キースに構っていられる余裕がないという感じだ。
慌ただしく動く使用人を眺め、嫌な予感が胸を騒つかせる。
焦る気持ちを抑え、アイシャの居場所を聞くため、ちょうど扉から出てきた使用人を捕まえる。
「失礼。アイシャ嬢はご在宅かな?」
「あっ! キース様、お待ちくださいませ。ただ今、旦那様にお取り継ぎ致します」
程なくして、使用人の案内のもと、キースは主人の執務室へと通された。執務室では、リンベル伯爵と夫人、そして兄のダニエルが沈鬱な面持ちで話をしている。
アイシャがいない……
まさか、彼女に何かあったのか?
「アイシャは、どちらにいらっしゃいますか!?」
嫌な胸騒ぎを覚え、キースはリンベル伯爵へ問いかける。キースの剣幕に息を飲んだ伯爵が、大きなため息を一つ吐き、キースへと近づくと、一枚の紙と封筒、そしてアイシャへと贈った婚約指輪を手渡された。
「これは……、いったい……」
「アイシャが、いなくなった」
「えっ!? どういう事ですか!!」
激情したキースを宥めるように事の顛末を話し出した伯爵の冷静な声が、事の重大さを物語っていた。
リンベル伯爵に手紙を見るように促され、キースは視線を落とす。渡された青い封筒の表書きには、アイシャの字で名前が書かれており、自分に宛てた手紙だとわかる。震える手で手紙の封を切り、中身を取り出し、流麗な文字で書かれた本文を読み始めた。
『キース様、婚約を前に勝手をするアイシャをお許しください。貴方様が、この手紙を読む頃には、わたくしは、この世にいないかもしれません。自身の運命に逆えず命を落とすとわかっていても、愛する人を助けたいのです。キース様、今まで本当にありがとうございました。貴方様がいたからこそ、私は傷ついた心を癒すことが出来ました。貴方様と一緒なら幸せな未来が築けると思い、本気で結婚を考えていたのも事実です。しかし、私の心の片隅には、ずっとリアム様がいました。リアム様がこの世から消えてしまうと考えた時、彼を見捨てる選択だけは、出来ませんでした。勝手をするアイシャをお許しください』
キースの手から手紙が滑り落ちる。
アイシャは、リアムを助けに行ったのか? 彼女の命が尽きるかもしれない……
「伯爵! アイシャは、どこに向かったのですか!?」
何かあったのか?
エントランスの扉は開け放たれ、ひっきりなしに使用人がバタバタと動き回っている。
こんなに騒がしいリンベル伯爵邸は見たことがなかった。本来であれば、キースがエントランスへと現れれば、すぐに家令が現れ、アイシャの元へと案内をしてくれる。しかし、今は、誰一人として、キースの来客に気づく者がいない。いいや、気づいているのかもしれないが、キースに構っていられる余裕がないという感じだ。
慌ただしく動く使用人を眺め、嫌な予感が胸を騒つかせる。
焦る気持ちを抑え、アイシャの居場所を聞くため、ちょうど扉から出てきた使用人を捕まえる。
「失礼。アイシャ嬢はご在宅かな?」
「あっ! キース様、お待ちくださいませ。ただ今、旦那様にお取り継ぎ致します」
程なくして、使用人の案内のもと、キースは主人の執務室へと通された。執務室では、リンベル伯爵と夫人、そして兄のダニエルが沈鬱な面持ちで話をしている。
アイシャがいない……
まさか、彼女に何かあったのか?
「アイシャは、どちらにいらっしゃいますか!?」
嫌な胸騒ぎを覚え、キースはリンベル伯爵へ問いかける。キースの剣幕に息を飲んだ伯爵が、大きなため息を一つ吐き、キースへと近づくと、一枚の紙と封筒、そしてアイシャへと贈った婚約指輪を手渡された。
「これは……、いったい……」
「アイシャが、いなくなった」
「えっ!? どういう事ですか!!」
激情したキースを宥めるように事の顛末を話し出した伯爵の冷静な声が、事の重大さを物語っていた。
リンベル伯爵に手紙を見るように促され、キースは視線を落とす。渡された青い封筒の表書きには、アイシャの字で名前が書かれており、自分に宛てた手紙だとわかる。震える手で手紙の封を切り、中身を取り出し、流麗な文字で書かれた本文を読み始めた。
『キース様、婚約を前に勝手をするアイシャをお許しください。貴方様が、この手紙を読む頃には、わたくしは、この世にいないかもしれません。自身の運命に逆えず命を落とすとわかっていても、愛する人を助けたいのです。キース様、今まで本当にありがとうございました。貴方様がいたからこそ、私は傷ついた心を癒すことが出来ました。貴方様と一緒なら幸せな未来が築けると思い、本気で結婚を考えていたのも事実です。しかし、私の心の片隅には、ずっとリアム様がいました。リアム様がこの世から消えてしまうと考えた時、彼を見捨てる選択だけは、出来ませんでした。勝手をするアイシャをお許しください』
キースの手から手紙が滑り落ちる。
アイシャは、リアムを助けに行ったのか? 彼女の命が尽きるかもしれない……
「伯爵! アイシャは、どこに向かったのですか!?」