転生アラサー腐女子はモブですから!?
悔恨【リアム視点】
――――私は生かされてしまった。
彼女の少しおどけた笑い声も、心を掴まれる真剣な眼差しも、真っ赤に頬を染め恥ずかしそうに睨む初々しい表情も、そして私を見つけた時の煌めくような笑顔も……
青白く輝き横たわる彼女を見つめ思う。
もうアイシャは戻って来ないのかもしれないと。
私を助けたりしなければ……
ベッドの縁に腰掛け、眠り続ける彼女の頬を撫でる。
温かい……
こうして、日に何度も彼女に触れ、生きていると確かめねば、安心出来ない。
それほどまでに、横たわる彼女は儚い。
アイシャを失ったあの日から、リアムの世界は灰色のままだ。
グレイスに脇腹を刺されたリアムは、確かに死にゆく存在だった。痛みはなく、ただただ体から力が抜け、意識を保つ事も出来ず、漠然と死ぬのだと感じていた。
アイシャを守れたならそれでいい。
彼女に何も伝えられず死ぬのだけが心残りだった。
アイシャだけを愛していると……
最期の言葉を伝える気力もなく、リアムの世界は暗転した。
真っ白な世界の中、優しい声に導かれ、目を凝らせば、青白く輝く光がはるか遠くに見える。そして、その光に手を伸ばした瞬間、リアムは私室のベッドの天井を見上げていた。
何が起こったのか、直ぐには理解出来なかった。己の身体に視線を巡らせ、違和感に気づく。
刺されたはずの傷痕は跡形もなく消え去り、痛みすら感じない。
今までの事が全て嘘だったのではと思える状況に、ベッドの上で呆然としていたリアムだったが、メイドが花瓶を落とす音で我に返った。そして、しばらく経つと、父と母が部屋に駆け込んできた。
私は生きているのか?
ベッドの縁で泣き崩れた母と安堵のため息を吐いた父の様子に、自分が本当に生きているという実感が湧く。それと同時に感じる嫌な胸騒ぎ。
「アイシャは!? アイシャは、生きているのですか?」
リアムの剣幕に息を飲んだ母と父の沈痛な面持ちに、嫌な予感が的中した事を悟った。
「アイシャ嬢は生きている。しかし、仮死状態なのだ。あとどれくらい保つかわからない。今、リンベル伯爵家にいる」
リアムは家族の静止を振り切り飛び出すと、馬を必死に走らせ、リンベル伯爵家の門扉を抜け、エントランスへと駆け込んだ。
リアムの唯ならぬ様子に、応対した使用人が慌ててリンベル伯爵夫人へと取り継ぎ、すぐに焦燥した夫人がエントランスへと現れる。その様子を見たリアムは嫌な予感が的中したことを悟った。
夫人の案内で、アイシャの私室へと通されたリアムは、ベッドに横たわるアイシャを遠目に見て愕然とする。
「まさか……、そんな…………」
駆け出したリアムは縋るようにベッドの縁へと膝をつくと、横たわるアイシャの頬を撫でる。
(温かい……)
ベッドに横たわるアイシャは青白い光に包まれ、瞳を閉じている。頬はほんのりと赤みが差し、唇も美しい紅を保っていた。
(眠っているのか?)
規則正しく上下する胸元が、アイシャが生きている事をリアムに伝えていた。しかし、次に続いた夫人の言葉がリアムを絶望の淵へと突き落とした。
「あの日からアイシャは目を覚ましません。あの娘は、自分の力の全てを使い、貴方を助ける選択をした。自分の命よりも、リアム様の命が何よりも大切だったのでしょう。リアム様、貴方にその意味がわかりますか? 私達、家族は誰も貴方を恨みません。どうか、あの娘が救った命、大切にしてください」
アイシャは、自分の命と引き換えに私の命を救った。
そんな…そんな…そんな………………
いつまでも笑っていて欲しかった。
私の側でなくてもいい。
誰の隣にいようとも、彼女が幸せならそれでよかった。
生きていても、人形のように何の感情も示さない彼女を見つめ思う。
アイシャのいない世界になんの意味があるというのだ。
ひとり残された部屋で、眠り続けるアイシャの手を握り呟く。
「君のいない世界なんて何の意味もない。――――頼む。目を覚ましてくれ……」
後から後から涙があふれ、握ったアイシャの手に雫が落ちていく。
彼女の少しおどけた笑い声も、心を掴まれる真剣な眼差しも、真っ赤に頬を染め恥ずかしそうに睨む初々しい表情も、そして私を見つけた時の煌めくような笑顔も……
青白く輝き横たわる彼女を見つめ思う。
もうアイシャは戻って来ないのかもしれないと。
私を助けたりしなければ……
ベッドの縁に腰掛け、眠り続ける彼女の頬を撫でる。
温かい……
こうして、日に何度も彼女に触れ、生きていると確かめねば、安心出来ない。
それほどまでに、横たわる彼女は儚い。
アイシャを失ったあの日から、リアムの世界は灰色のままだ。
グレイスに脇腹を刺されたリアムは、確かに死にゆく存在だった。痛みはなく、ただただ体から力が抜け、意識を保つ事も出来ず、漠然と死ぬのだと感じていた。
アイシャを守れたならそれでいい。
彼女に何も伝えられず死ぬのだけが心残りだった。
アイシャだけを愛していると……
最期の言葉を伝える気力もなく、リアムの世界は暗転した。
真っ白な世界の中、優しい声に導かれ、目を凝らせば、青白く輝く光がはるか遠くに見える。そして、その光に手を伸ばした瞬間、リアムは私室のベッドの天井を見上げていた。
何が起こったのか、直ぐには理解出来なかった。己の身体に視線を巡らせ、違和感に気づく。
刺されたはずの傷痕は跡形もなく消え去り、痛みすら感じない。
今までの事が全て嘘だったのではと思える状況に、ベッドの上で呆然としていたリアムだったが、メイドが花瓶を落とす音で我に返った。そして、しばらく経つと、父と母が部屋に駆け込んできた。
私は生きているのか?
ベッドの縁で泣き崩れた母と安堵のため息を吐いた父の様子に、自分が本当に生きているという実感が湧く。それと同時に感じる嫌な胸騒ぎ。
「アイシャは!? アイシャは、生きているのですか?」
リアムの剣幕に息を飲んだ母と父の沈痛な面持ちに、嫌な予感が的中した事を悟った。
「アイシャ嬢は生きている。しかし、仮死状態なのだ。あとどれくらい保つかわからない。今、リンベル伯爵家にいる」
リアムは家族の静止を振り切り飛び出すと、馬を必死に走らせ、リンベル伯爵家の門扉を抜け、エントランスへと駆け込んだ。
リアムの唯ならぬ様子に、応対した使用人が慌ててリンベル伯爵夫人へと取り継ぎ、すぐに焦燥した夫人がエントランスへと現れる。その様子を見たリアムは嫌な予感が的中したことを悟った。
夫人の案内で、アイシャの私室へと通されたリアムは、ベッドに横たわるアイシャを遠目に見て愕然とする。
「まさか……、そんな…………」
駆け出したリアムは縋るようにベッドの縁へと膝をつくと、横たわるアイシャの頬を撫でる。
(温かい……)
ベッドに横たわるアイシャは青白い光に包まれ、瞳を閉じている。頬はほんのりと赤みが差し、唇も美しい紅を保っていた。
(眠っているのか?)
規則正しく上下する胸元が、アイシャが生きている事をリアムに伝えていた。しかし、次に続いた夫人の言葉がリアムを絶望の淵へと突き落とした。
「あの日からアイシャは目を覚ましません。あの娘は、自分の力の全てを使い、貴方を助ける選択をした。自分の命よりも、リアム様の命が何よりも大切だったのでしょう。リアム様、貴方にその意味がわかりますか? 私達、家族は誰も貴方を恨みません。どうか、あの娘が救った命、大切にしてください」
アイシャは、自分の命と引き換えに私の命を救った。
そんな…そんな…そんな………………
いつまでも笑っていて欲しかった。
私の側でなくてもいい。
誰の隣にいようとも、彼女が幸せならそれでよかった。
生きていても、人形のように何の感情も示さない彼女を見つめ思う。
アイシャのいない世界になんの意味があるというのだ。
ひとり残された部屋で、眠り続けるアイシャの手を握り呟く。
「君のいない世界なんて何の意味もない。――――頼む。目を覚ましてくれ……」
後から後から涙があふれ、握ったアイシャの手に雫が落ちていく。