転生アラサー腐女子はモブですから!?
不思議な夢
――――貴方は誰なの?
遠くからアイシャへと手を差し伸べる白い影。追いかけても、追いかけても届かない。
あと少し。必死に手を伸ばし、掴もうとした瞬間、視界が暗転し、見慣れた寝室の天井が目に入る。
(また、あの夢だわ)
白い影の手を掴もうとして、目が覚めるのだ。一年前から度々見る夢が、アイシャを悩ませていた。
あの女性はいったい誰なのか?
シルエットから女性だとはわかる。しかし、それ以外は何も分からない。それなのに、何故か懐かしい気持ちになる。前世の記憶なのか、それとも違う何かなのか。
(今の世界に夢占いでもあれば、あの夢が何を意味しているかわかるのかしらねぇ。考えても仕方ないし寝直そうっと!)
考えることを早々に放棄し、寝直そうとしたアイシャの頭上から容赦のない怒声が降ってくる。
「アイシャ様! いつまで寝ているのですか!! 昨日あれほど言いましたのに! 今日は王城で開かれる夜会の日ですよ。お嬢さまがデビューする日だと言うのに。やる事がいっぱいあるのです。さっさと起きる!!」
社交界デビューをするにあたり、母につけられたアイシャの監視役、もとい専属侍女アマンダ。怒り心頭の彼女に布団を引きはがされ叩き起こされる。
(あぁぁぁ、忘れていたぁ。今日は社交界デビューの日じゃないの)