転生アラサー腐女子はモブですから!?
目の前の男が段々と、前世、飼っていた犬に見えてくる。ご主人の気をひこうと頑張る大きな犬に。
あの頃、飼っていたゴールデンレトリバーの『ポチ』の事を思い出し、アイシャの胸がキュっと痛む。
(大好きだったポチ。戯れあって押し倒される事もあったわね。背中を撫でてあげると嬉しそうに顔中を舐められたっけ)
「――――っ!! アイシャ、君って人は」
アイシャは脳裏によみがえった懐かしい記憶のままに、ポンポンとあやすようにキースの背中を叩いていた。
「俺をあおったのは、アイシャだからな!」
「へっ?? ふぅっ…うぅ………」
気づいた時には遅かった。唇を塞がれ、驚きでわずかに開いた唇から、舌を差し入れられ、口腔を蹂躙されていた。
(えぇぇぇぇ、待って待って待って。ディープキスされてる?)
必死でキースの背中を叩くアイシャだったが、彼女を抱きしめる腕の力は緩まない。
(誰か助けてぇぇぇ……)
「キース様。そろそろ、おやめください! アイシャ様が窒息します」
真横から聞こえた冷静な声と同時に唇の熱が離れ、解放された唇から肺へといっきに酸素が入ってくる。『助かったぁぁ』と、我に返った時には、目の前のキースは屈強な男達に両脇を抱えられ、邸内に消えるところだった。
「アイシャ様、失礼致しました。我が家の主人の振る舞い、代わりましてお詫び申し上げます」
シワの刻まれた温和な顔にメガネをかけ、お仕着せ姿の男性が、アイシャへと向かい深々と頭を下げる。どうやら、彼が窒息しそうだったアイシャをキースから救ってくれたらしい。
「わたくし、ナイトレイ侯爵家領地の管理を任されております執事のライアンと申します。滞在中のお世話を侍女と共にさせて頂きますので、何卒よろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。リンベル伯爵家のアイシャと申します」
目の前の執事ライアンは、優しい笑みを浮かべた初老の紳士だった。しかし、キースの暴挙にも動じず対処する姿は妙な迫力がある。さすが、侯爵家の執事といったところか。
(さっきのキスシーン、ばっちり見られていたわよね)
ライアンの後ろに控える使用人の方々の姿が見えるが、眉ひとつ動かさず整列する様は、かえってアイシャの羞恥心を容赦なく煽ってくる。
(恥ずかしさで憤死するわ)
こうしてナイトレイ侯爵領地で過ごす一週間は、キースとのディープキスという想像すらしていなかった暴挙から始まったのだった。
あの頃、飼っていたゴールデンレトリバーの『ポチ』の事を思い出し、アイシャの胸がキュっと痛む。
(大好きだったポチ。戯れあって押し倒される事もあったわね。背中を撫でてあげると嬉しそうに顔中を舐められたっけ)
「――――っ!! アイシャ、君って人は」
アイシャは脳裏によみがえった懐かしい記憶のままに、ポンポンとあやすようにキースの背中を叩いていた。
「俺をあおったのは、アイシャだからな!」
「へっ?? ふぅっ…うぅ………」
気づいた時には遅かった。唇を塞がれ、驚きでわずかに開いた唇から、舌を差し入れられ、口腔を蹂躙されていた。
(えぇぇぇぇ、待って待って待って。ディープキスされてる?)
必死でキースの背中を叩くアイシャだったが、彼女を抱きしめる腕の力は緩まない。
(誰か助けてぇぇぇ……)
「キース様。そろそろ、おやめください! アイシャ様が窒息します」
真横から聞こえた冷静な声と同時に唇の熱が離れ、解放された唇から肺へといっきに酸素が入ってくる。『助かったぁぁ』と、我に返った時には、目の前のキースは屈強な男達に両脇を抱えられ、邸内に消えるところだった。
「アイシャ様、失礼致しました。我が家の主人の振る舞い、代わりましてお詫び申し上げます」
シワの刻まれた温和な顔にメガネをかけ、お仕着せ姿の男性が、アイシャへと向かい深々と頭を下げる。どうやら、彼が窒息しそうだったアイシャをキースから救ってくれたらしい。
「わたくし、ナイトレイ侯爵家領地の管理を任されております執事のライアンと申します。滞在中のお世話を侍女と共にさせて頂きますので、何卒よろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。リンベル伯爵家のアイシャと申します」
目の前の執事ライアンは、優しい笑みを浮かべた初老の紳士だった。しかし、キースの暴挙にも動じず対処する姿は妙な迫力がある。さすが、侯爵家の執事といったところか。
(さっきのキスシーン、ばっちり見られていたわよね)
ライアンの後ろに控える使用人の方々の姿が見えるが、眉ひとつ動かさず整列する様は、かえってアイシャの羞恥心を容赦なく煽ってくる。
(恥ずかしさで憤死するわ)
こうしてナイトレイ侯爵領地で過ごす一週間は、キースとのディープキスという想像すらしていなかった暴挙から始まったのだった。