転生アラサー腐女子はモブですから!?

変化

(あぁぁ、助かった……)

 甘い空気をぶち壊し、侵入して来た珍入者の存在にアイシャは、心の中で手を合わせる。

 師匠が現れなければ、顔を真っ赤に染めたキースとアイシャを微笑ましく見守る給仕メイドの皆さまという、ある種異様な空気感が続いていたかと思うと、いたたまれない。

(感謝、感謝です、師匠)

「久しぶりだな、アイシャ。一年振りか」

 アイシャへと向かい、ニカッと笑い手を挙げる師匠に、慌てて立ち上がり頭を下げる。

「ルイス様、ご無沙汰しております。その節は、大変お世話になりまして、ご挨拶にもお伺いせず、申し訳ありません」

「いやいや、気にするな。アイシャも、ここ一年、色々と大変だったな」

 そう言って笑う師匠の顔が、幼い頃の記憶と重なり胸を熱くさせる。辛い剣の修行、何度も師匠の優しさに救われた。一つずつ、出来ることが増えるたびに、自分のことのように一緒に喜んでくれた。そんな師匠の存在があったからこそ、剣を握り続けることが出来たのだ。

 あの日々があったからこそ、過酷な淑女教育にも耐えられたと、今ならわかる。

「いいえ、師匠のしごきのおかげで、母からの淑女教育も、へこたれず耐えることが出来ました」

「そうか、そうか。剣の修行は、肉体だけではなく、精神を鍛える修行でもあるからな。俺は、淑女教育のことはよくわからないが、あの修行の日々が無駄ではなかったのなら、よかった」

「無駄だなんて、あの師匠との日々で、だいぶ我慢強くなりましたから」

「確かにな、あれだけキースとやり合って、最後まで根をあげなかったアイシャの根性は、すごいと思うぞ」

「あぁぁ、兄さん! その話は、やめてくれ」

「なんだ、キース。過去も含め、今のお前があるのだろう。失敗を認め、後悔し、それでも前に進む決意をしたなら、何を隠す必要がある」

「いや、まぁ。確かに、そうですが。アイシャには、過去の俺は忘れてもらいたいというか……、今の俺を見てもらいたいというか……」

「ははは、だったら尚更、過去は隠すべきではないな。過去を含め、今のお前を好いてもらわなくては、結婚生活など成り立たない。夫婦になる者同士、禍根を残してはならない」

「もちろん、そのつもりです!」

 先生と生徒よろしく、今にもルイス様に向かい敬礼でもしそうな勢いで、姿勢を正すキースの隣で、アイシャはと言うと、居た堪れなさ全開で俯くしかなかった。そんなアイシャの心中を察してか、助け舟が出される。
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