転生アラサー腐女子はモブですから!?
「あなた、その辺にしておいたら。アイシャさんが困っていらっしゃるわ」
「マ、マリアベルさま!!」
開け放たれた扉から入ってきた懐かしい人物を認め、アイシャは叫ぶ。萌葱色の瞳を優しく細め、おっとりとした口調で話すご婦人は、マクレーン伯爵家のマリアベル様だ。妻の登場に瞬時に反応した師匠が、マリアベル様に近づき、彼女のとび色の髪を優しく撫でる。
相変わらずのラブラブっぷりに、こちらの方が赤くなってしまう。
昔も、二人の触れ合いに何度も当てられた。この二人の様子を見て、意にそぐわない政略結婚だったと思い込んでいたキースの節穴っぷりに呆れてしまう。
(キースって……、思い込み激しそうだものね)
「それに、キースもよ。焦る気持ちもわかるけど、順序はきちんと踏まないと、女の子は逃げてしまうわよ」
「姉さんまで、俺を責めないでくださいよ」
ふふふと笑みを浮かべながら紡がれるマリアベル様の言葉に、キースが困ったように頭をかく。その様子を目にとめたアイシャは、キースの態度の変化に内心驚いていた。
アイシャを憎むと同時に、マクレーン伯爵家へも憎悪を向けていたキース。だからこそ、マリアベル様をずっと避けていたのだ。こんなにフランクに会話を交わせるほどに、二人の関係が改善するには、並大抵の努力では成し得ない。マリアベル様の歩み寄りはもちろんだが、キース自身が己の行いを反省し、伯爵家との関係改善に尽力しなければ難しい。
(夜会で言っていた言葉は真実だったのね)
再会するまでの一年間、ずっと後悔し続けたとキースは言った。そして、マリアベル様にも、彼は頭を下げ続けたのではないだろうか? だからこそ、マリアベル様もキースを許した。
「アイシャさん、二人だけでお話、しませんこと?」
「よろしいのですか? あのぉ、師匠とキース様は……」
考えごとをしていたアイシャは、いつの間にか師匠とキースがダイニングからいなくなっていることに気づいていなかった。
「大丈夫よ。もともと、今回の訪問は、わたくしがアイシャさんと二人でお話したくて、ルイスにわがままを言ったの。だから、ルイスにキースを連れ出してもらったわ」
「えっと、それは?」
「ずっと、お礼が言いたかったの」
「お礼ですか? 私は、何も……」
「ルイスから聞いたわ。アイシャさん、あなたがキースの心を解放してくれたと。ご存知よね? キースは、ずっとマクレーン伯爵家を、そして私をずっと憎んでいたことを」
そう言って、マリアベル様が寂しそうに笑う。彼女もまた、ずっと苦しんできたのだ。ルイス様とマリアベル様が愛し合い結婚したと言っても、側から見れば、ルイス様は後継の座を降ろされ、格下の伯爵家へ婿入りしたとみなされる。
人の粗を探し、蹴落とすことが当たり前の貴族社会では、恰好の噂の種になっただろう。様々な場面で、マリアベル様は貶され、揶揄されてきたのかもしれない。その上、ルイス様の実の弟、キースにまで、憎まれ、避けられている状況だ。想像する以上に、辛い日々を送られてきたのだろう。
「マ、マリアベルさま!!」
開け放たれた扉から入ってきた懐かしい人物を認め、アイシャは叫ぶ。萌葱色の瞳を優しく細め、おっとりとした口調で話すご婦人は、マクレーン伯爵家のマリアベル様だ。妻の登場に瞬時に反応した師匠が、マリアベル様に近づき、彼女のとび色の髪を優しく撫でる。
相変わらずのラブラブっぷりに、こちらの方が赤くなってしまう。
昔も、二人の触れ合いに何度も当てられた。この二人の様子を見て、意にそぐわない政略結婚だったと思い込んでいたキースの節穴っぷりに呆れてしまう。
(キースって……、思い込み激しそうだものね)
「それに、キースもよ。焦る気持ちもわかるけど、順序はきちんと踏まないと、女の子は逃げてしまうわよ」
「姉さんまで、俺を責めないでくださいよ」
ふふふと笑みを浮かべながら紡がれるマリアベル様の言葉に、キースが困ったように頭をかく。その様子を目にとめたアイシャは、キースの態度の変化に内心驚いていた。
アイシャを憎むと同時に、マクレーン伯爵家へも憎悪を向けていたキース。だからこそ、マリアベル様をずっと避けていたのだ。こんなにフランクに会話を交わせるほどに、二人の関係が改善するには、並大抵の努力では成し得ない。マリアベル様の歩み寄りはもちろんだが、キース自身が己の行いを反省し、伯爵家との関係改善に尽力しなければ難しい。
(夜会で言っていた言葉は真実だったのね)
再会するまでの一年間、ずっと後悔し続けたとキースは言った。そして、マリアベル様にも、彼は頭を下げ続けたのではないだろうか? だからこそ、マリアベル様もキースを許した。
「アイシャさん、二人だけでお話、しませんこと?」
「よろしいのですか? あのぉ、師匠とキース様は……」
考えごとをしていたアイシャは、いつの間にか師匠とキースがダイニングからいなくなっていることに気づいていなかった。
「大丈夫よ。もともと、今回の訪問は、わたくしがアイシャさんと二人でお話したくて、ルイスにわがままを言ったの。だから、ルイスにキースを連れ出してもらったわ」
「えっと、それは?」
「ずっと、お礼が言いたかったの」
「お礼ですか? 私は、何も……」
「ルイスから聞いたわ。アイシャさん、あなたがキースの心を解放してくれたと。ご存知よね? キースは、ずっとマクレーン伯爵家を、そして私をずっと憎んでいたことを」
そう言って、マリアベル様が寂しそうに笑う。彼女もまた、ずっと苦しんできたのだ。ルイス様とマリアベル様が愛し合い結婚したと言っても、側から見れば、ルイス様は後継の座を降ろされ、格下の伯爵家へ婿入りしたとみなされる。
人の粗を探し、蹴落とすことが当たり前の貴族社会では、恰好の噂の種になっただろう。様々な場面で、マリアベル様は貶され、揶揄されてきたのかもしれない。その上、ルイス様の実の弟、キースにまで、憎まれ、避けられている状況だ。想像する以上に、辛い日々を送られてきたのだろう。