転生アラサー腐女子はモブですから!?
「――――しかし、貴族令嬢が結婚もせずにどうやって生きて行くつもりだったんだ? 職もなければ、自分の身の回りの世話すら出来ないだろう。衣食住を整えるのにも金はいるぞ」

 なんだ、その偏見は!!

「キース様、それこそ女性に対する偏見ですよ。女性だからって手に職をつけられないとは限りません」

「確かにな。騎士団にいる女性騎士も、王城で働く女官や侍女も、貴族令嬢が就く職のひとつか」

「そうです。それに幼い貴族令嬢のマナーや刺繍など、淑女としての教育を施すため雇われる家庭教師もれっきとした女性が就く職業です」

「しかし、男が稼ぐ給金より、はるかに少ないのが現状ではないのか。貴族家で養われていた時よりもかなり質素な生活を強いられるだろう。貴族家に嫁ぐ方が幸せだと思うが」

「それこそ偏見ですわ。結婚が全てではありませんもの。給金が少なくとも、工夫次第で衣食住を担保することは出来ます。貴族令嬢でも結婚せずに生きて行くことは可能なのです」

「確かにその通りだが……、アイシャは将来、結婚するつもりがないのか?」

「社交界デビューするまでは結婚するつもりはありませんでした。しかし、王城で開かれた夜会で策略に嵌められまして、どなたかと婚約を結ばなくては、いけなくなりましたの。キース様も心当たりはお有りかと思います」

 策略に嵌められた手前、当事者の一人であるキースを、ついついジト目で睨んでしまう。

「俺はアイシャにプロポーズしたことを後悔したりしない。ノア王太子やリアムがアイシャにアプローチしているのも知っているが譲るつもりはない」

 己を見つめるキースの真剣な眼差しとぶつかり、アイシャの心臓の鼓動がトクトクと高鳴り出す。しかし、速まる鼓動の音に気づかないフリをして、言い募る。

「わたくしも、誰かとの結婚が避けられないのであれば、政略結婚も致し方ないと考えております。皆さまにとってリンベル伯爵家と姻戚関係になる事は、とても重要だと存じています。娘は、私のみですから、嫌でも私と婚約しなければなりませんものね」

「はっ!? アイシャは、何を言っているんだ! ちょっと、待て……」

「――――でも、問題ありませんわ! わたくし、愛人を囲うことには寛容でしてよ。衣食住さえ補償くだされば、すぐに別宅へ移りますし」

 若干心の奥がモヤモヤするが無視し、キースの目を見てきっぱり告げてやる。

(そうよ! 愛人とお幸せに〜、そしてバラ色の人生、こんにちわよ)

 そんなことを考えていたアイシャの肩を、隣で深いため息をこぼしたキースがつかみ、にらむ。
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