転生アラサー腐女子はモブですから!?

ひとりで生きるということ

「はぁぁぁ……」

 ナイトレイ侯爵領からの帰り道、馬車の中でアイシャは深いため息をこぼす。

 キースと過ごした一週間、彼に対する見方は大きく変わった。あんなにストレートに言葉をぶつけてくる人だとは、思ってもみなかった。

 遠駆けへ出掛けてから今日まで、キースはアイシャに対して、『好きだ』『愛している』と数えきれない程の求愛の言葉を言い続けた。そのしつこさと言ったら、壊れたおしゃべりロボットかと思うほどだった。男性からの愛の告白なんて、前世でも今世でも経験が全くないアイシャには、ハードルが高過ぎる。

 あいさつ代わりに毎日毎日、愛の言葉を言われ続ければ、嫌でもキースのことを意識してしまう。

 朝食の席では、髪型が可愛いだの、洋服が素敵だの、毎日のようにほめられる。しかも、ぴったりとアイシャの隣に座ったキースに、朝食を取り分けてもらったりと、甲斐甲斐しくも、世話をされる。

 邸内にある庭園を散歩すれば、さらっと合流したキースにエスコートされる。もちろん腰を抱かれながらだ。しかも、散歩の時に目に留めた花々を集めた花束を渡されたりと、女性が喜ぶポイントを、見事におさえたアプローチを展開される。

『アイシャの美しさには負けますが、この花束が貴方の癒しになりますように』

 こんな手紙が添えられた花束を受け取って嬉しくない女性はいない。毎日の好き好き攻撃は、徐々にアイシャの意識を変えていった。

(キースって……、肉食系男子だったのね。恋愛初心者の私には対処しきれないわよ)

 昨日も、書庫で本を読んでいたアイシャの隣に座ったキースに、あれよあれよと言う間に、膝の上へと抱かれていた。どうしたら、あんな状況になってしまうのか意味不明だ。

(私、チョロ過ぎるわよね)

 キースとの濃すぎる一週間を終え、疲労困憊のアイシャを乗せた馬車はゆっくりと進む。

 この一週間で、キースに対する気持ちに変化があったのかと言うと、よくわからない。苦手意識はなくなったと思う。しかし、彼と同じ熱量で好きかと問われるとそうでもない。アプローチにドキドキしていたのは慣れていないからだと思う。ただ、キースとの一週間を振り返ると心の奥底が疼くような気もする。それが何かと問われるとわからない。

 去り際に言われた言葉が頭の中を巡る。

『俺との結婚を真剣に考えて欲しい。返事は急がないが、これだけは忘れないでくれ。俺は誰よりもアイシャを愛している』

 私はいったいどうしたらいいのよ。

 これから一緒に過ごさねばならないノア王太子とリアムの事を考えると憂鬱でしかない。

(本当、恋愛初心者の私にはきっついわぁぁぁぁぁ)

 悶々と考え込むアイシャを乗せた馬車は順調に進み、数刻後にはリンベル伯爵家の門扉に到着していた。
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