転生アラサー腐女子はモブですから!?
「名をグレイスと言います。ピンクブロンドの髪に緑の瞳のたいそう可愛らしい令嬢だとか。生まれは貧しい農村の出ですが、その村が盗賊に襲われるのを予知し、それを聞きつけたドンファン伯爵家に、十七歳の時、養女として入っています。『さきよみの力』があると言われています」

「さきよみの力とは、最後の白き魔女と同じ力か。その真偽は?」

「真偽のほどは、わかりません。ドンファン伯爵家に入ってから近しい貴族家に行ったとされる予知もいくつか報告はされていますが、裏でドンファン伯爵家が糸を引いていた形跡がチラホラと。社交界で流れている噂の信憑性は低いかと思われます」

「では、グレイス嬢が行った予知で信憑性が高いと思われるものは、ドンファン伯爵家に入る前に行ったもののみか。なんとも怪しいなぁ……」

「しかし、その予知に関しても出来すぎていると申しますか」

「グレイスと盗賊が仲間同士で、彼女が仲間を裏切り密告すれば、予知は当たるということか」

「はい。ただ、自然災害の予知は仕組むことが出来ませんので、本当にさきよみの力があったのかもしれません」

「まぁ、真相がどうであれ、厄介な存在であることに変わりはない。よりにもよって、白き魔女を名乗るとは……」

 アイシャが白き魔女としての力を復活させたのは、疑いようもない事実だ。あの日、この目で確かに見た。

 グレイスとかいう女の『さきよみの力』が本物だとするなら、白き魔女としての力を持つ者は、アイシャとグレイスの二人ということになる。

「グレイス嬢は、リンベル伯爵家の遠縁なのか?」

「いいえ。リンベル伯爵家とは全く関係ございません。ルイ殿の隠し子という事もありませんし、生家もリンベル伯爵家との繋がりは一切ありません」

 最後の白き魔女の遺言、『リンベル伯爵家の女児から白き魔女が復活する』という伝承にも当てはまらない。

(まぁ、この伝承は王家とナイトレイ侯爵家、そしてウェスト侯爵家の極秘事項ゆえ、伝承を知らないドンファン伯爵が己の利のために、娘が白き魔女だと社交界に言いふらしているのだろうが)

「グレイス嬢のさきよみの力が本物かどうか、今の段階では判断出来ない。引き続き、ドンファン伯爵とグレイス嬢の行動を監視し、随時伝えよ」

「承知致しました」

 執事姿に擬態した侯爵家直属の暗部の男を見送りながら、今後のことを考える。


 必ずやグレイスは、アイシャに(あだ)なす存在となるだろう。どんな手を使ってでも、大切なアイシャを守らねばならない。

 幸いにも、アイシャが白き魔女としての力を復活させた事を知る者達は、古の契約で結ばれた四家のみだ。

(ドンファン伯爵家の出方次第では、グレイス嬢を闇に葬らねばならん。全てはアイシャとの幸せな未来のために……)


< 79 / 233 >

この作品をシェア

pagetop