転生アラサー腐女子はモブですから!?

恋敵からの提案【アナベル視点】

「なぜよ……、なぜ、ノア様は私を選んでくれなかったのよ」

 アナベルは、アイシャを目の前に、テーブルに突っ伏し、泣き続けていた。

 恋敵でもある彼女の前で、みっともなく泣き腫らしている事など、もはやどうでもいい。

 アイシャに出会ってしまった己の運の無さにも泣けてくる。

 今回の船旅は、ノア王太子殿下を忘れるための傷心旅行だった。気心の知れた侍女と数人の護衛のみを連れた船旅は、アナベルの傷ついた心を癒してくれるはずだった。それなのに、元凶ともいえるアイシャに出会ってしまうなんて、あんまりだ。

 ノア王太子がアイシャに求婚したことが、社交界に知れ渡ると、今まで王太子妃候補筆頭だったアナベルの立場は一転した。

 デビュタントの夜会で、アイシャを叱責したアナベルの評判は地に落ちた。気の強い傲慢な令嬢だと噂が流れ、侯爵家の力を使い、王太子妃候補筆頭に上りつめたのではないかと言われている。

 己の立場に胡座をかき、ノア王太子の御前でも、傲慢な態度を崩さなかったため、彼の反感を買ったと。そんな傲慢令嬢アナベルとの婚約を阻止するため、ノア王太子は、側近のダニエルの妹、アイシャへと求婚したのだろうと言われている。

 確かにアナベルは、ノア王太子との接点を持つために、様々な策を講じてきた。

 王族主催のお茶会には積極的に参加し、最近やっと王妃様とも、個人的なお付き合いをしてもらえるまでになった。そのおかげか、夜会では、ノア王太子からダンスに誘ってもらえることも増え、徐々に距離が縮まっていると感じていたのに。

 あの夜会でノア王太子と踊るアイシャを見て、アナベルの理性は崩壊した。醜い嫉妬に駆られ、淑女として有るまじき言動を取ってしまった。

 今の現状は、未熟な自分自身が蒔いた種だと、十分に理解している。あの時を後悔しても、今更遅いのだと言うことも分かっている。

 醜い感情に支配されるなど、愚かなことだと十分過ぎるほど、身に染みたと言うのに、どうしても気持ちに折り合いがつかない。

「なぜ、わたくしじゃダメなの……」
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