好きな人が罰ゲームで私に告白するそうです
癖のない、真っ直ぐな栗色の髪をサラサラと靡かせ、フラウ・セリュリエは放課後の学院を歩いていた。
この王立学院の生徒であるフラウは放課後、いつもは図書室で本を読むことが日課となっている。けれど今日は気分を変えて食堂のテラスに場所を移そう。
そう思い立って、借りてきた本を抱いて食堂へ向かっていた。
生徒が大勢いる時間帯だと、近寄る事のない食堂。ある程度、空いている事が見込める今がチャンスとばかりに心が浮き立つ。
本日は特に空いているようで、利用生徒がまばらな食堂を通り抜け、外のテラススペースに出ようとした瞬間──。
フラウの瓶底眼鏡の奥の瞳に映ったのは、狙っていた席が、既に先客で埋まっている様子だった。
焦ってズレかけた眼鏡を片手で掛け直し、隠れるようにしてテラスと食堂の狭間で様子を伺う事にした。席は同学年の男子生徒四人に占領されている。よく見ると四人はカードゲームの最中のようで、それを食堂の壁からほんの少し顔を出して確認する。
(リアン様……)
四人のうちの一人、亜麻色の髪に、青灰色の瞳の中性的な面立ちの彼はリアン・シルヴェストル。シルヴェストル侯爵家の嫡男である。
シルヴェストル領は、フラウの生家であるセリュリエ伯爵家の領地と隣り合っている。そのような縁もあり、彼とは幼馴染であり、小さい頃は良く遊ぶ仲だった。
そしてフラウは昔からリアンに想いを寄せていた。現在はほとんど会話をする事も無くなってしまったが、フラウの想いは当時のまま。
他にもテラス席はあるものの、何となく気まずくて諦めようとしたその時。
「リアンの負けだな」
一人の男子生徒、フィッシャー伯爵家のジョエルが口にしたリアンの名に、フラウは心臓がドキリと高鳴る。
「罰ゲーム決定!で、罰ゲームは何にする?」
ニヤニヤしながら話す、別の男子生徒の声が聞こえる。
「そうだなぁ、じゃあフラウ・セリュリエ伯爵令嬢に告白なんてどう?」
「お、それいいね!」
ジョエルの提案に一同が賛同し、途端に笑いが巻き起こる。
(えっ……?)
聞いてしまった会話に、フラウの頭は真っ白になり、地面がグラリと揺らぐような錯覚に陥っていた。
そして更に追い討ちをかけるように、リアンの声が呟かれる。
「分かった」
仲間内から提案された罰ゲームの内容を、あっさりと了承した彼の声が、頭と耳に響いてくる。
目の前が真っ暗になりそうになりながらも、フラウは急いで身を隠す事にした。
ソファーの背もたれで死角となる場所で身を屈め、一旦頭の中を整理する事にした。
(罰ゲームが私への告白……?どういう事?)
罰ゲームにおける告白とは、絶対に付き合いたくない異性に愛を囁き、後から「さっきのは罰ゲームで言わされた、嘘の告白でした〜〜」と残酷な種明かしをするアレに違いない。
改めて自分自身を客観的に振り返ってみると、瓶底眼鏡の地味な容姿に加え、数年前には領地が飢饉に見舞われ財政難に陥っている伯爵家の娘。
確かに、好き好んで告白をする相手ではない。
(酷い……)
彼らからしたら単なる遊びなのかもしれないが、好きな人に嘘の告白をされるなんて、フラウからしたらなんと残酷な事だろう。
辛い状況につい、涙ぐみそうになってしまった。
足音が聞こえ、ソファーの背もたれから顔を少し出して覗いてみると、リアンが丁度食堂を出て行くところだった。
フラウは涙を堪えて、バレないようにこっそりとリアンの後を追ってみる事にした。
階段を登り、二階の廊下を真っ直ぐに歩いて行ったリアンは図書室の前で足を止める。
リアンの行き先は図書室。どうやらリアンは、フラウが放課後、図書室で本を読むことを日課にしている事を知っているらしい。
そんな彼が図書室に入った事を確認すると、フラウは逃げるように正門へと向かった。絶対に顔を合わせたくないし、嘘の告白なんて当然聞きたくない。
出来れば、テラスにいた男子生徒達にも出くわしたくないと思い、ほんの少しだけ遠回りをする事にした。
しかし正門が見えてきたその瞬間、見覚えのある人影を捉えてしまい目を剥いた。
正門の前にリアンが立っていたからだ。
(何で!!?)
いつの間に先回りしていたのだろうか?
そこでつい、思ってしまう。彼はどれだけ罰ゲームに執念を燃やしているのだろうか。どれだけ自分に告白をし、そして振りたいのか。そうまでして私に引導を渡したいのか。フラウは怒りと悲しみで、気付けば痛いくらい拳を握っていた。
(本当に酷い……)
仕方がないので正門は諦め、裏門から帰る事に決めたのだった。
没落してしまったが、仲の良い家族に囲まれてフラウはそれなりに幸せに暮らしていた。
節約を知り、食べ物やお金、物の大切さを改めて知る事が出来た。他家の貴族の家庭に比べれば質素だが、家族や少ない使用人達皆が、笑顔で暮らせている事について、日々感謝せずにはいられない。
そしていくら節約をモットーに生きていても、全く娯楽がない訳ではない。フラウの大好きな物の一つは読書であり、家の書庫にも本は沢山ある。
しかも学院の図書館などで、無料で借りる事も出来るなんて、なんて素晴らしい娯楽。ちなみに「無料」という言葉も大好きだ。
素晴らしき趣味の読書であるが唯一の難点といえば、夜遅くまで月明かりを頼りに、蝋燭を節約した部屋で必死で本を読んでいたら、どんどん視力が悪くなってきてしまった。
お陰で瓶底眼鏡生活を、余儀なくされる事となっている。
最近では視力を回復出来る白魔術が国内の貴族で流行しているが、その治療費も中々高額なのである。
伯爵邸へと帰宅したフラウは、放課後の出来事を思い出し、自室で眼鏡を取るとついに涙ぐんでしまった。時刻は夕刻前。そんな彼女の元に、女の使用人が部屋を訪ねて来た。
「お嬢様、シルヴェストル家のリアン様がいらっしゃいました」
「うっ……」
まさか、自宅にまで乗り込んで来ようとするとは思わなかった。たじろぐフラウに、首を傾げながら使用人は口を開く。
「それも薔薇の花束を抱えて……」
「追い返して!!」
「でも……」
「気分が優れないから、お会いできないと言って頂戴」
断固として譲る気配のないフラウに、とうとう使用人も折れ「畏まりました」と一言告げて部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
「はぁ……疲れた……」
翌日の学院にて。女子トイレや、音楽棟の個人レッスン用のピアノ室に籠るなりして、フラウはリアンから必死に逃げ続けていた。
だが、それでも行く先々でリアンを見かけるのだ。
(しつこすぎ!!……あ、でも私が目的とは限らないじゃないっ)
自意識過剰過ぎたかもしれないと思いつつ、フラウは膝の上の包みを解いて、僅かな野菜が挟まれたペラペラのサンドイッチを取り出す。
現在は昼休み。中庭の隅に設置されたベンチが、フラウが昼食を食べる際のいつもの席である。
食堂の食事は高いのと、セリュリエ家自慢のペラペラサンドイッチを好奇な目で見られるのが居た堪れないので、昼食はいつも一人中庭で取ることにしている。
そしてフラウが、サンドイッチを一口食べようと、口を開いたその瞬間。
「フラウ」
背後から気配もなくリアンが現れた。しつこい上に、神出鬼没なのが更にフラウを悩ませていた。
「っきゃー!!出たー!!」
慌てふためいたフラウは、事もあろうにサンドイッチを宙に舞わせてしまった。
「あああっ、私のサンドイッチ!!?」
空中に散らばり掛けたサンドイッチのパンと具材を、フラウは信じられない俊敏さでキャッチしていく。執念のサンドイッチキャッチだった。
だが心臓がバクバクと落ち着かず、胸が痛い。
当然だ。大切な食べ物を危うく落としかけたのだ。何たる失態。
「あっ、危なかった……!!!」
そんな執念の俊敏性を披露したフラウを、リアンは唖然と見つめていた。
「す、すまない……」
言葉を失っていた彼だが、正気に戻るととても申し訳なさそうに肩を落とし、真摯に謝罪の言葉を述べてくる。そんな彼に視線を向けると、フラウは早口で捲したてる。
「リアン様、大事なサンドイッチを落としかけたせいで、わたくし今は心が疲弊しているのです。ごめんなさい。失礼致します」
そう言って直ぐにリアンに背を向けて足早に去ろうとする。そんなフラウに、リアンは声を掛けることを一旦諦めたようだった。
一方フラウは、少し罪悪感が芽生えていた。リアンに向かって素っ気ない声音で話しかけたのは、今のが始めてだったから──。
(今のは流石にちょっと失礼だったかしら?)
そう思った次の瞬間、すぐに別の感情がそれを打ち消してくる。
(いいえ!罰ゲームで私に告白した挙句、振ろうとしてる人の方がよっぽど失礼だわ!)
そう自分を奮い立たせ、今度こそ安全な食事場所を求めて、力強く歩き出したのだった。
──放課後、フラウはいつもの通り、図書室にて読書に耽っていた。
図書室の隅に孤立した、一番日当たりが悪い席。彼女にとって、ここが一番落ち着くのだ。
その時。
(来たわね……!)
図書室の扉が開く音がして、そちらの方を確認するとリアンが入室してくる姿があった。静謐な図書室ゆえ、すぐに気付く事が出来た。
リアンが自分を見つける前に、何処かに身を隠さねばならない。そうして予め決めていた隠れ場所、先程本を読むのに使っていたテーブルの下へと、フラウは潜り込んだ。
(まさか年頃の令嬢がテーブルの下に潜んでいるなんて、思いもよらないでしょう。リアン様のような血統の良いお坊っちゃまにはね!!)
何故か得意げになるフラウだが、目の前で長い足がピタリと止まる。
何だか嫌な予感がする。
そういえば、小さい頃大好きなお祖母様が亡くなって、隠れてずっと泣いていると、自分を見つけ出して慰めてくれるリアンの事を思い出した。何処に隠れたとしても、何故か彼にはいつもお見通しのようだった。
こんな時に優しい大切な記憶を思い出すなんて……。
身を屈めて自分を見つめる青灰色の瞳と目が合い、更に昔と重なってしまう。
しかしバレたなら仕方がないとばかりにテーブルから這い出ると、一旦私語禁止のこの図書室からリアンを連れて出る事にした。
(残念、これも想定内なのよ!)
もし見つかってしまった場合も既に考え済みである。
図書室を出た直後、毅然とした態度と声でフラウはリアンに言い放った。
「リアン様、どうしても私に何か言いたい事がおありなら、皆の前で逆立ちしながらにして下さい!!じゃないと聞きません!」
逆立ちしながらの告白。ただでさえ意味不明すぎる状況だが、追い討ちのように『皆の前で』という極めて不名誉な設定を継ぎ足しておいた。
これなら、『告白されて振られる私』の屈辱と相打ちか、それ以上の羞恥を相手に与えられるはずだ。
(ふふふ、困っているわね。これでも私に嫌がらせが出来るのかしら!?)
流石のリアンも顔色が悪く、口籠もっているが、彼は恐る恐る形のいい唇を開いた。
「少し……時間をくれないだろうか?」
(正気ですか!!?)
「三日後……いや、明日には何とか習得してみせる……!」
拳を握りしめて力強く言い放つ彼を見て、フラウに衝撃が走る。
(そこまで……そこまでして……!!!?)
「待っててくれ」
真摯に向き合ってくる彼に、何故か誠実さを感じてしまう。
最初は嫌がらせをして楽しもうとするなんて、と憤慨していたフラウだが、ここまでくると自分の価値観がおかしいのかとさえ思えてきた。
もしかしたら昔から真面目だったリアンは、ただ純粋に罰ゲームの任務を遂行しようと、ひたすらに真っ直ぐなだけかもしれない。真面目の方向性が可笑しいけど。
「では、また明日。待っててくれ」
踵を返して去っていくリアン。その後ろ姿は戦場にでも向かうような気迫を纏っているかのようで、妙に頼もしく見えるのは何故だろうか。
(リアン様……もしかして、今から家に帰って逆立ちの練習をなさるのですか?)
◇ ◇ ◇
翌日の放課後。
生徒が大勢いる時間帯では、やはり迷惑を避けられない。といった理由を考慮して、放課後に行われる事となった。
そう、リアンからフラウに、逆立ちしながらの告白が。
フラウが『皆の前で』と更に条件を付け加えたお陰で、あの日リアンと共にカードゲームをしていた三人が集められ、更に通りかかった三人の女生徒といったギャラリーが追加された。
そして現在、なぜか彼は階段の踊り場に立って、皆を見下ろしている。
(ちょ、ちょちょっと待って!リアン様はどうして階段の上にいらっしゃるのですか!?)
よくわからない展開に慌てふためくフラウに視線を向けると、リアンは高らかに宣言をした。
「聞いてくれフラウ!僕の真剣さを伝えるため、僕は逆立ちどころか、逆立ちをしながら階段を降りつつ、フラウにこの想いを伝えようと思う!」
「えええ!!?」
(何でそうなった!?)
「い、いつの間にそのような技を習得されたのですか!?」
「安心してくれ、昨日逆立ちの練習をしていたら中々安定してきたんだ。だが逆立ちをしながら階段を下るのは初めてだから、一発勝負でいこうと思う」
「馬鹿なの!?」
ついに言ってしまったが、撤回する気は微塵もない。
妙な展開に場が騒つく中、巻き込まれた三人の女生徒の内、一人の悲鳴が場の空気を切り裂いた。
「いやぁぁぁ!リアン様ぁ!!」
声を荒げて泣き叫ぶのは、カロリーネ嬢。そういえば、彼女はリアンのファンだった。
そんな彼女を尻目に、フラウは必死に呼びかける。
「確かに逆立ちしながらにして下さいと私は言いましたが、そこまで求めてません!リアン様止めて下さい!」
「見ていてくれフラウ」
ついに両手を挙げて、謎の構えを披露する彼を見た瞬間、堪らずフラウは階段を駆け上がっていた。
「いやー!ごめんなさいごめんなさい!逆立ちしろとかふざけてごめんなさい!私が悪かったです!逆立ちなんて無意味な事はやめて、普通に言って下さい!普通がいいです、むしろ普通じゃないと聞きません」
気づけば、リアンにしがみついて叫んでいたフラウ。
負けた……屈辱くらい耐えよう……。
リアン様が阿呆な理由で怪我するくらいなら、ちょっとした屈辱くらい甘んじて受け入れよう。そう腹を括った瞬間でもあった。
しがみついて離そうとしないフラウに、唖然と視線を落としたリアンはゆっくりと口を開いた。
「そ、そうか……フラウがそう言うなら……」
ようやく逆立ち階段下りを諦めてくれた事に安堵した瞬間、リアンのしなやかな指がフラウの指に絡んでくる。
「子供の頃からずっと好きだった。どうか僕の婚約者になってくれないだろうか?」
「……はい」
これで彼は満足しただろうか?後は罰ゲームの嘘ドッキリが大成功した事による、種明かしの言葉を待つのみ。
「本当か!?父上はフラウが了承してくれたら、婚姻を認めて下さるとおっしゃっていた」
「……」
昔から可愛がってくれた、リアンの面立ちに似た侯爵が頭を過る。
「では後日改めて、セリュリエ伯爵に僕達の婚約の打診をさせて頂かないと」
「え……?」
父への報告の話まで出してくるなんて思わず、ソワソワと周りを見るが、ギャラリーは固唾を呑んで見守っているのみ。誰もドッキリ種明かしを言い出してくる気配がない。
流石にそろそろこの茶番を終わらせてもらいたい。そう思った瞬間「おめでとう!」という言葉と共に男子三人の大袈裟な拍手が廊下に響き渡った。
そんな様子を見て、カロリーネが涙を零しながら呟く。
「あんなに情熱的なリアン様を見てしまったら、諦めるしかありませんわ……」
(情熱的?どう見ても単なる奇行だったけど……!?)
他の女子二人に慰められつつ、支えられながらカロリーネは退場してしまった。
「ず、随分手の込んだ罰ゲームですね……」
頬が引き攣ったフラウは、とうとう自分の口から罰ゲームの言葉を出してしまった。
とっとと引導を渡してほしい。
その言葉に反応したリアンが驚き目を見張った。
「知っていたのか……」
「はい」
罰ゲームの内容をたまたま通りがかって聞いてしまっていた。そんなフラウを見て、リアンは意を決して口を開いた。
「自分が……中々フラウに告白出来ないままでいたせいで、このような事になってしまった……。もし断られたらと思うと、勇気が出なかったなんて、本当に情けないとんだ臆病者だったよ僕は」
「え?」
痛ましい表情で胸を押さえながら語られた、リアンの新たな告白に耳を疑った。だが、それとは 別に気になる事もある。逆立ちをしながら階段を降りようとしていた人が臆病とは、妙な事を言う──なんて思わずにはいられない。
その時、見守っていた男子生徒の一人、ジョエルが勢いよく頭を下げた。
「セリュリエ嬢、申し訳ない……!お節介だとは分かってたんだけど、ついじれったくて罰ゲームに好きな子に告白するよう仕向けてしまった。気分を害していたら本当に申し訳ない!」
「は?え?好きな……?嘘の告白では」
「嘘?」
一同が首をかしげるのを見て、フラウは慌てて取り繕う。
「な、何でもありませんわ!」
──たまたま耳に入った自分への「罰ゲームでの告白」てっきり罰ゲームとは、何の魅力もない自分へ嘘の告白をする事だと、思い込んで疑わなかった。
それがまさか好きな人への告白が、罰ゲームの意味だったとは。
(私は何て捻くれていたのかしら……リアン様、ごめんなさい……)
◇ ◇ ◇
後日、両家の親を交えて正式な婚約を結んだ二人。この休日に、二人きりで町へと出かけていた。
まず訪れたのは、白魔法の館。視力回復の治療魔法を終えたフラウが瓶底眼鏡を握りしめて、閉じていた瞼を開く──。視界が開けた途端。宝石のような、エメラルドグリーンの大きな瞳を煌めかせた。
「わぁ!眼鏡が無くても遠くが見えます!」
感動しながら、辺りを見渡すフラウを前にリアンは微かな声で呟いた。
「ああ……その瞳を一人占めしたいと何度思った事か……」
「何ですか?」
「……なんでもないよ」
リアンに手を引かれて、白魔法の館を出たフラウは、くるくると回って嬉しそうに町の風景を眺めやる。
出来る事なら、誰にも見せる事なく独占したい思いが込み上げてくるが、輝かんばかりの笑顔を見せてくれるフラウ。フラウが自分の隣に居てくれるだけで、リアンは幸せだった。
この王立学院の生徒であるフラウは放課後、いつもは図書室で本を読むことが日課となっている。けれど今日は気分を変えて食堂のテラスに場所を移そう。
そう思い立って、借りてきた本を抱いて食堂へ向かっていた。
生徒が大勢いる時間帯だと、近寄る事のない食堂。ある程度、空いている事が見込める今がチャンスとばかりに心が浮き立つ。
本日は特に空いているようで、利用生徒がまばらな食堂を通り抜け、外のテラススペースに出ようとした瞬間──。
フラウの瓶底眼鏡の奥の瞳に映ったのは、狙っていた席が、既に先客で埋まっている様子だった。
焦ってズレかけた眼鏡を片手で掛け直し、隠れるようにしてテラスと食堂の狭間で様子を伺う事にした。席は同学年の男子生徒四人に占領されている。よく見ると四人はカードゲームの最中のようで、それを食堂の壁からほんの少し顔を出して確認する。
(リアン様……)
四人のうちの一人、亜麻色の髪に、青灰色の瞳の中性的な面立ちの彼はリアン・シルヴェストル。シルヴェストル侯爵家の嫡男である。
シルヴェストル領は、フラウの生家であるセリュリエ伯爵家の領地と隣り合っている。そのような縁もあり、彼とは幼馴染であり、小さい頃は良く遊ぶ仲だった。
そしてフラウは昔からリアンに想いを寄せていた。現在はほとんど会話をする事も無くなってしまったが、フラウの想いは当時のまま。
他にもテラス席はあるものの、何となく気まずくて諦めようとしたその時。
「リアンの負けだな」
一人の男子生徒、フィッシャー伯爵家のジョエルが口にしたリアンの名に、フラウは心臓がドキリと高鳴る。
「罰ゲーム決定!で、罰ゲームは何にする?」
ニヤニヤしながら話す、別の男子生徒の声が聞こえる。
「そうだなぁ、じゃあフラウ・セリュリエ伯爵令嬢に告白なんてどう?」
「お、それいいね!」
ジョエルの提案に一同が賛同し、途端に笑いが巻き起こる。
(えっ……?)
聞いてしまった会話に、フラウの頭は真っ白になり、地面がグラリと揺らぐような錯覚に陥っていた。
そして更に追い討ちをかけるように、リアンの声が呟かれる。
「分かった」
仲間内から提案された罰ゲームの内容を、あっさりと了承した彼の声が、頭と耳に響いてくる。
目の前が真っ暗になりそうになりながらも、フラウは急いで身を隠す事にした。
ソファーの背もたれで死角となる場所で身を屈め、一旦頭の中を整理する事にした。
(罰ゲームが私への告白……?どういう事?)
罰ゲームにおける告白とは、絶対に付き合いたくない異性に愛を囁き、後から「さっきのは罰ゲームで言わされた、嘘の告白でした〜〜」と残酷な種明かしをするアレに違いない。
改めて自分自身を客観的に振り返ってみると、瓶底眼鏡の地味な容姿に加え、数年前には領地が飢饉に見舞われ財政難に陥っている伯爵家の娘。
確かに、好き好んで告白をする相手ではない。
(酷い……)
彼らからしたら単なる遊びなのかもしれないが、好きな人に嘘の告白をされるなんて、フラウからしたらなんと残酷な事だろう。
辛い状況につい、涙ぐみそうになってしまった。
足音が聞こえ、ソファーの背もたれから顔を少し出して覗いてみると、リアンが丁度食堂を出て行くところだった。
フラウは涙を堪えて、バレないようにこっそりとリアンの後を追ってみる事にした。
階段を登り、二階の廊下を真っ直ぐに歩いて行ったリアンは図書室の前で足を止める。
リアンの行き先は図書室。どうやらリアンは、フラウが放課後、図書室で本を読むことを日課にしている事を知っているらしい。
そんな彼が図書室に入った事を確認すると、フラウは逃げるように正門へと向かった。絶対に顔を合わせたくないし、嘘の告白なんて当然聞きたくない。
出来れば、テラスにいた男子生徒達にも出くわしたくないと思い、ほんの少しだけ遠回りをする事にした。
しかし正門が見えてきたその瞬間、見覚えのある人影を捉えてしまい目を剥いた。
正門の前にリアンが立っていたからだ。
(何で!!?)
いつの間に先回りしていたのだろうか?
そこでつい、思ってしまう。彼はどれだけ罰ゲームに執念を燃やしているのだろうか。どれだけ自分に告白をし、そして振りたいのか。そうまでして私に引導を渡したいのか。フラウは怒りと悲しみで、気付けば痛いくらい拳を握っていた。
(本当に酷い……)
仕方がないので正門は諦め、裏門から帰る事に決めたのだった。
没落してしまったが、仲の良い家族に囲まれてフラウはそれなりに幸せに暮らしていた。
節約を知り、食べ物やお金、物の大切さを改めて知る事が出来た。他家の貴族の家庭に比べれば質素だが、家族や少ない使用人達皆が、笑顔で暮らせている事について、日々感謝せずにはいられない。
そしていくら節約をモットーに生きていても、全く娯楽がない訳ではない。フラウの大好きな物の一つは読書であり、家の書庫にも本は沢山ある。
しかも学院の図書館などで、無料で借りる事も出来るなんて、なんて素晴らしい娯楽。ちなみに「無料」という言葉も大好きだ。
素晴らしき趣味の読書であるが唯一の難点といえば、夜遅くまで月明かりを頼りに、蝋燭を節約した部屋で必死で本を読んでいたら、どんどん視力が悪くなってきてしまった。
お陰で瓶底眼鏡生活を、余儀なくされる事となっている。
最近では視力を回復出来る白魔術が国内の貴族で流行しているが、その治療費も中々高額なのである。
伯爵邸へと帰宅したフラウは、放課後の出来事を思い出し、自室で眼鏡を取るとついに涙ぐんでしまった。時刻は夕刻前。そんな彼女の元に、女の使用人が部屋を訪ねて来た。
「お嬢様、シルヴェストル家のリアン様がいらっしゃいました」
「うっ……」
まさか、自宅にまで乗り込んで来ようとするとは思わなかった。たじろぐフラウに、首を傾げながら使用人は口を開く。
「それも薔薇の花束を抱えて……」
「追い返して!!」
「でも……」
「気分が優れないから、お会いできないと言って頂戴」
断固として譲る気配のないフラウに、とうとう使用人も折れ「畏まりました」と一言告げて部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
「はぁ……疲れた……」
翌日の学院にて。女子トイレや、音楽棟の個人レッスン用のピアノ室に籠るなりして、フラウはリアンから必死に逃げ続けていた。
だが、それでも行く先々でリアンを見かけるのだ。
(しつこすぎ!!……あ、でも私が目的とは限らないじゃないっ)
自意識過剰過ぎたかもしれないと思いつつ、フラウは膝の上の包みを解いて、僅かな野菜が挟まれたペラペラのサンドイッチを取り出す。
現在は昼休み。中庭の隅に設置されたベンチが、フラウが昼食を食べる際のいつもの席である。
食堂の食事は高いのと、セリュリエ家自慢のペラペラサンドイッチを好奇な目で見られるのが居た堪れないので、昼食はいつも一人中庭で取ることにしている。
そしてフラウが、サンドイッチを一口食べようと、口を開いたその瞬間。
「フラウ」
背後から気配もなくリアンが現れた。しつこい上に、神出鬼没なのが更にフラウを悩ませていた。
「っきゃー!!出たー!!」
慌てふためいたフラウは、事もあろうにサンドイッチを宙に舞わせてしまった。
「あああっ、私のサンドイッチ!!?」
空中に散らばり掛けたサンドイッチのパンと具材を、フラウは信じられない俊敏さでキャッチしていく。執念のサンドイッチキャッチだった。
だが心臓がバクバクと落ち着かず、胸が痛い。
当然だ。大切な食べ物を危うく落としかけたのだ。何たる失態。
「あっ、危なかった……!!!」
そんな執念の俊敏性を披露したフラウを、リアンは唖然と見つめていた。
「す、すまない……」
言葉を失っていた彼だが、正気に戻るととても申し訳なさそうに肩を落とし、真摯に謝罪の言葉を述べてくる。そんな彼に視線を向けると、フラウは早口で捲したてる。
「リアン様、大事なサンドイッチを落としかけたせいで、わたくし今は心が疲弊しているのです。ごめんなさい。失礼致します」
そう言って直ぐにリアンに背を向けて足早に去ろうとする。そんなフラウに、リアンは声を掛けることを一旦諦めたようだった。
一方フラウは、少し罪悪感が芽生えていた。リアンに向かって素っ気ない声音で話しかけたのは、今のが始めてだったから──。
(今のは流石にちょっと失礼だったかしら?)
そう思った次の瞬間、すぐに別の感情がそれを打ち消してくる。
(いいえ!罰ゲームで私に告白した挙句、振ろうとしてる人の方がよっぽど失礼だわ!)
そう自分を奮い立たせ、今度こそ安全な食事場所を求めて、力強く歩き出したのだった。
──放課後、フラウはいつもの通り、図書室にて読書に耽っていた。
図書室の隅に孤立した、一番日当たりが悪い席。彼女にとって、ここが一番落ち着くのだ。
その時。
(来たわね……!)
図書室の扉が開く音がして、そちらの方を確認するとリアンが入室してくる姿があった。静謐な図書室ゆえ、すぐに気付く事が出来た。
リアンが自分を見つける前に、何処かに身を隠さねばならない。そうして予め決めていた隠れ場所、先程本を読むのに使っていたテーブルの下へと、フラウは潜り込んだ。
(まさか年頃の令嬢がテーブルの下に潜んでいるなんて、思いもよらないでしょう。リアン様のような血統の良いお坊っちゃまにはね!!)
何故か得意げになるフラウだが、目の前で長い足がピタリと止まる。
何だか嫌な予感がする。
そういえば、小さい頃大好きなお祖母様が亡くなって、隠れてずっと泣いていると、自分を見つけ出して慰めてくれるリアンの事を思い出した。何処に隠れたとしても、何故か彼にはいつもお見通しのようだった。
こんな時に優しい大切な記憶を思い出すなんて……。
身を屈めて自分を見つめる青灰色の瞳と目が合い、更に昔と重なってしまう。
しかしバレたなら仕方がないとばかりにテーブルから這い出ると、一旦私語禁止のこの図書室からリアンを連れて出る事にした。
(残念、これも想定内なのよ!)
もし見つかってしまった場合も既に考え済みである。
図書室を出た直後、毅然とした態度と声でフラウはリアンに言い放った。
「リアン様、どうしても私に何か言いたい事がおありなら、皆の前で逆立ちしながらにして下さい!!じゃないと聞きません!」
逆立ちしながらの告白。ただでさえ意味不明すぎる状況だが、追い討ちのように『皆の前で』という極めて不名誉な設定を継ぎ足しておいた。
これなら、『告白されて振られる私』の屈辱と相打ちか、それ以上の羞恥を相手に与えられるはずだ。
(ふふふ、困っているわね。これでも私に嫌がらせが出来るのかしら!?)
流石のリアンも顔色が悪く、口籠もっているが、彼は恐る恐る形のいい唇を開いた。
「少し……時間をくれないだろうか?」
(正気ですか!!?)
「三日後……いや、明日には何とか習得してみせる……!」
拳を握りしめて力強く言い放つ彼を見て、フラウに衝撃が走る。
(そこまで……そこまでして……!!!?)
「待っててくれ」
真摯に向き合ってくる彼に、何故か誠実さを感じてしまう。
最初は嫌がらせをして楽しもうとするなんて、と憤慨していたフラウだが、ここまでくると自分の価値観がおかしいのかとさえ思えてきた。
もしかしたら昔から真面目だったリアンは、ただ純粋に罰ゲームの任務を遂行しようと、ひたすらに真っ直ぐなだけかもしれない。真面目の方向性が可笑しいけど。
「では、また明日。待っててくれ」
踵を返して去っていくリアン。その後ろ姿は戦場にでも向かうような気迫を纏っているかのようで、妙に頼もしく見えるのは何故だろうか。
(リアン様……もしかして、今から家に帰って逆立ちの練習をなさるのですか?)
◇ ◇ ◇
翌日の放課後。
生徒が大勢いる時間帯では、やはり迷惑を避けられない。といった理由を考慮して、放課後に行われる事となった。
そう、リアンからフラウに、逆立ちしながらの告白が。
フラウが『皆の前で』と更に条件を付け加えたお陰で、あの日リアンと共にカードゲームをしていた三人が集められ、更に通りかかった三人の女生徒といったギャラリーが追加された。
そして現在、なぜか彼は階段の踊り場に立って、皆を見下ろしている。
(ちょ、ちょちょっと待って!リアン様はどうして階段の上にいらっしゃるのですか!?)
よくわからない展開に慌てふためくフラウに視線を向けると、リアンは高らかに宣言をした。
「聞いてくれフラウ!僕の真剣さを伝えるため、僕は逆立ちどころか、逆立ちをしながら階段を降りつつ、フラウにこの想いを伝えようと思う!」
「えええ!!?」
(何でそうなった!?)
「い、いつの間にそのような技を習得されたのですか!?」
「安心してくれ、昨日逆立ちの練習をしていたら中々安定してきたんだ。だが逆立ちをしながら階段を下るのは初めてだから、一発勝負でいこうと思う」
「馬鹿なの!?」
ついに言ってしまったが、撤回する気は微塵もない。
妙な展開に場が騒つく中、巻き込まれた三人の女生徒の内、一人の悲鳴が場の空気を切り裂いた。
「いやぁぁぁ!リアン様ぁ!!」
声を荒げて泣き叫ぶのは、カロリーネ嬢。そういえば、彼女はリアンのファンだった。
そんな彼女を尻目に、フラウは必死に呼びかける。
「確かに逆立ちしながらにして下さいと私は言いましたが、そこまで求めてません!リアン様止めて下さい!」
「見ていてくれフラウ」
ついに両手を挙げて、謎の構えを披露する彼を見た瞬間、堪らずフラウは階段を駆け上がっていた。
「いやー!ごめんなさいごめんなさい!逆立ちしろとかふざけてごめんなさい!私が悪かったです!逆立ちなんて無意味な事はやめて、普通に言って下さい!普通がいいです、むしろ普通じゃないと聞きません」
気づけば、リアンにしがみついて叫んでいたフラウ。
負けた……屈辱くらい耐えよう……。
リアン様が阿呆な理由で怪我するくらいなら、ちょっとした屈辱くらい甘んじて受け入れよう。そう腹を括った瞬間でもあった。
しがみついて離そうとしないフラウに、唖然と視線を落としたリアンはゆっくりと口を開いた。
「そ、そうか……フラウがそう言うなら……」
ようやく逆立ち階段下りを諦めてくれた事に安堵した瞬間、リアンのしなやかな指がフラウの指に絡んでくる。
「子供の頃からずっと好きだった。どうか僕の婚約者になってくれないだろうか?」
「……はい」
これで彼は満足しただろうか?後は罰ゲームの嘘ドッキリが大成功した事による、種明かしの言葉を待つのみ。
「本当か!?父上はフラウが了承してくれたら、婚姻を認めて下さるとおっしゃっていた」
「……」
昔から可愛がってくれた、リアンの面立ちに似た侯爵が頭を過る。
「では後日改めて、セリュリエ伯爵に僕達の婚約の打診をさせて頂かないと」
「え……?」
父への報告の話まで出してくるなんて思わず、ソワソワと周りを見るが、ギャラリーは固唾を呑んで見守っているのみ。誰もドッキリ種明かしを言い出してくる気配がない。
流石にそろそろこの茶番を終わらせてもらいたい。そう思った瞬間「おめでとう!」という言葉と共に男子三人の大袈裟な拍手が廊下に響き渡った。
そんな様子を見て、カロリーネが涙を零しながら呟く。
「あんなに情熱的なリアン様を見てしまったら、諦めるしかありませんわ……」
(情熱的?どう見ても単なる奇行だったけど……!?)
他の女子二人に慰められつつ、支えられながらカロリーネは退場してしまった。
「ず、随分手の込んだ罰ゲームですね……」
頬が引き攣ったフラウは、とうとう自分の口から罰ゲームの言葉を出してしまった。
とっとと引導を渡してほしい。
その言葉に反応したリアンが驚き目を見張った。
「知っていたのか……」
「はい」
罰ゲームの内容をたまたま通りがかって聞いてしまっていた。そんなフラウを見て、リアンは意を決して口を開いた。
「自分が……中々フラウに告白出来ないままでいたせいで、このような事になってしまった……。もし断られたらと思うと、勇気が出なかったなんて、本当に情けないとんだ臆病者だったよ僕は」
「え?」
痛ましい表情で胸を押さえながら語られた、リアンの新たな告白に耳を疑った。だが、それとは 別に気になる事もある。逆立ちをしながら階段を降りようとしていた人が臆病とは、妙な事を言う──なんて思わずにはいられない。
その時、見守っていた男子生徒の一人、ジョエルが勢いよく頭を下げた。
「セリュリエ嬢、申し訳ない……!お節介だとは分かってたんだけど、ついじれったくて罰ゲームに好きな子に告白するよう仕向けてしまった。気分を害していたら本当に申し訳ない!」
「は?え?好きな……?嘘の告白では」
「嘘?」
一同が首をかしげるのを見て、フラウは慌てて取り繕う。
「な、何でもありませんわ!」
──たまたま耳に入った自分への「罰ゲームでの告白」てっきり罰ゲームとは、何の魅力もない自分へ嘘の告白をする事だと、思い込んで疑わなかった。
それがまさか好きな人への告白が、罰ゲームの意味だったとは。
(私は何て捻くれていたのかしら……リアン様、ごめんなさい……)
◇ ◇ ◇
後日、両家の親を交えて正式な婚約を結んだ二人。この休日に、二人きりで町へと出かけていた。
まず訪れたのは、白魔法の館。視力回復の治療魔法を終えたフラウが瓶底眼鏡を握りしめて、閉じていた瞼を開く──。視界が開けた途端。宝石のような、エメラルドグリーンの大きな瞳を煌めかせた。
「わぁ!眼鏡が無くても遠くが見えます!」
感動しながら、辺りを見渡すフラウを前にリアンは微かな声で呟いた。
「ああ……その瞳を一人占めしたいと何度思った事か……」
「何ですか?」
「……なんでもないよ」
リアンに手を引かれて、白魔法の館を出たフラウは、くるくると回って嬉しそうに町の風景を眺めやる。
出来る事なら、誰にも見せる事なく独占したい思いが込み上げてくるが、輝かんばかりの笑顔を見せてくれるフラウ。フラウが自分の隣に居てくれるだけで、リアンは幸せだった。