満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜
意図が掴めず
(ウサギである私が話せるようになったのは、シオン殿下の魔法のお陰……?)
ウサギにされて以来声が出せなかった私が、この二人きりの空間で、突如話せるようになった。本人が言うまでもなく、シオン殿下によるものなのは、状況を鑑みれば明白。
当然の事をすぐに導き出せない程、私の脳内は混乱をきたしていた。
未だ狼狽中の私とは対極に、静かで落ち着いた声が降りてくる。
「そもそもリディア、何故君はウサギの姿になっているの?」
「フェリアの仕業です。先日夜遅くまで王宮にいた日……。帰りの馬車の用意が整うまで、庭園で薔薇を見たいってフェリアに言われて。妹と二人で薔薇を見に行ったら、その時にこんな姿にされてしまったのです」
経緯を話した途端、殿下は呆れたように短く息を吐いた。
「君は現在、行方不明という事になっている。公爵には、リディアは保護しているが、犯人を特定するまで家族であっても他言無用だと告げてはいるが」
「お父様……」
まさか、娘が行方知れずになり、その犯人が自分の二番目の娘だなんて。真相を知ってしまったら、どう思うのか。父の立場になって考えると、胸が締め付けられてしまう。
殿下も少なからず察していたから、家族にも他言無用と言ったのかもしれない。
「では君の意思で、ウサギになっている訳ではないという事だな」
唐突に当たり前の事を確認され、私は一瞬面を食らってしまった。
「当たり前です。誰が好き好んで、動物に姿を変えられたいと思うのですかっ!?」
「人間の姿に戻りたい?」
「だから、そういってるじゃないですか」
なおも彼は淡々と質問を重ねる。
「僕の婚約者である、エヴァンス公爵令嬢の姿に戻りたい。そしてゆくゆくは僕の妃となりたいという事だな」
「……」
回りくどい程のしつこい確認を繰り返され、全く彼の真意が分からない。
何が言いたいんだと、心中で目を眇めている最中に、殿下の背後にある無数の肖像画が視界に入る。私は息を飲んだ。
はっとして視線を戻すと、シオン殿下の瞳が仄暗い色を纏っているように感じてしまった。
「リディア、何故答えない……?」