満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜
過去②
そんな折、王宮で園遊会が開かれる事となった。参加者で賑わう園遊会では、中々リディアと話す時間が多く取れないが、社交は避けられない。
しかし同年代の貴族の子供達と談笑中であろうと、離れた位置からシオンは、常にリディアを視界の隅に捉えていた。
公爵家であるエヴァンス家も他家との交流や挨拶回りで、周りに人がいるのが常だ。
辛抱強く観察を続けていると、ようやくエヴァンス公爵とリディアに話しかける者の波が途絶えつつあり、シオンもそちらに足を向けようとした。しかし父公爵から離れたリディアは、一人薔薇の花壇へと歩いて行った。
シオンが思うに、きっと「お父様、わたくし薔薇を少し眺めたいわ。お父様の目の届く範囲におりますから」
などと、もっともらしい事を言って離れたのだろうと予想した。要はリディアは貴族達との挨拶に飽きたのだ。
大人しそうな外見と、落ち着いた声と話し方が特徴的であり、真面目で控えめな令嬢と思われがちなリディア。彼女は周囲から持たれる印象を逆手に取って、上手く立ち回る節がある。
リディアはそういう令嬢なのだと、思考、行動パターンは既に把握済みである。
なにせシオンは、彼女の一挙一動を観察するのを趣味としている。
だが次の瞬間、リディアの髪を飾っていたマゼンタのリボンが風によって、薔薇園の方へと飛ばされてしまった。
一部始終どころか、常にリディアを見ていたシオンは、貴族の子供達に一言断りを入れると、急いでリボンを追走する。
始めはもちろんリボンを拾って、リディアへと手渡そうと思っていた。
しかし……。リディアよりも先にリボンを見つける事が出来たシオンは、手の中にあるリボンを凝視する。
(リディアの……髪を飾っていたリボン……)
あの艶やかで真っ直ぐな、美しい藍色の髪。サラサラと髪が風に靡く様を思い返せば、スルリとリボンが解けやすくなるのは仕方がない。
(リディアの……)
心中で復唱し、気付けば生唾を飲み込んでいた。返すのが惜しくなってしまったシオンは、事もあろうにマゼンタのリボンをポケットにしまいこんでしまった。
人の物を盗るのは王子として、いや人として有るまじき行為。そんな事くらい、自分だって分かりきっている。
「シオン殿下」
名を呼ばれ、急いで顔を上げる。確認しなくても誰なのか声で分かる。リディアだ。
「何だ?」
「殿下、それ私のリボンですよね?」
「何の事だ。僕は知らない」
(チッ、見られていたか)
心中で舌打ちをすると、リディアはシオンのポケットを指差した。
「ポケットから出ています」
「知らないと言っているっ」
「返してくださいっ」
「し、知らない!そうだ、リボンを無くしてしまったのなら、僕が新しいリボンを贈ってやろう。欲しい物を好きなだけ!」
中々苦しい反論だが、合法的にプレゼントが出来る作戦として、リディアも意を汲んで欲しい。そう願った。
「え、いりませんよ。ソレがいいので、さっさと返してください」
「……」
地位も名誉もプレゼントさえも興味がないなんて。
何故肝心のリディアからは興味を持たれないのか、彼の幼い恋心は僅かに仄暗い影が射しつつあった。
しかし同年代の貴族の子供達と談笑中であろうと、離れた位置からシオンは、常にリディアを視界の隅に捉えていた。
公爵家であるエヴァンス家も他家との交流や挨拶回りで、周りに人がいるのが常だ。
辛抱強く観察を続けていると、ようやくエヴァンス公爵とリディアに話しかける者の波が途絶えつつあり、シオンもそちらに足を向けようとした。しかし父公爵から離れたリディアは、一人薔薇の花壇へと歩いて行った。
シオンが思うに、きっと「お父様、わたくし薔薇を少し眺めたいわ。お父様の目の届く範囲におりますから」
などと、もっともらしい事を言って離れたのだろうと予想した。要はリディアは貴族達との挨拶に飽きたのだ。
大人しそうな外見と、落ち着いた声と話し方が特徴的であり、真面目で控えめな令嬢と思われがちなリディア。彼女は周囲から持たれる印象を逆手に取って、上手く立ち回る節がある。
リディアはそういう令嬢なのだと、思考、行動パターンは既に把握済みである。
なにせシオンは、彼女の一挙一動を観察するのを趣味としている。
だが次の瞬間、リディアの髪を飾っていたマゼンタのリボンが風によって、薔薇園の方へと飛ばされてしまった。
一部始終どころか、常にリディアを見ていたシオンは、貴族の子供達に一言断りを入れると、急いでリボンを追走する。
始めはもちろんリボンを拾って、リディアへと手渡そうと思っていた。
しかし……。リディアよりも先にリボンを見つける事が出来たシオンは、手の中にあるリボンを凝視する。
(リディアの……髪を飾っていたリボン……)
あの艶やかで真っ直ぐな、美しい藍色の髪。サラサラと髪が風に靡く様を思い返せば、スルリとリボンが解けやすくなるのは仕方がない。
(リディアの……)
心中で復唱し、気付けば生唾を飲み込んでいた。返すのが惜しくなってしまったシオンは、事もあろうにマゼンタのリボンをポケットにしまいこんでしまった。
人の物を盗るのは王子として、いや人として有るまじき行為。そんな事くらい、自分だって分かりきっている。
「シオン殿下」
名を呼ばれ、急いで顔を上げる。確認しなくても誰なのか声で分かる。リディアだ。
「何だ?」
「殿下、それ私のリボンですよね?」
「何の事だ。僕は知らない」
(チッ、見られていたか)
心中で舌打ちをすると、リディアはシオンのポケットを指差した。
「ポケットから出ています」
「知らないと言っているっ」
「返してくださいっ」
「し、知らない!そうだ、リボンを無くしてしまったのなら、僕が新しいリボンを贈ってやろう。欲しい物を好きなだけ!」
中々苦しい反論だが、合法的にプレゼントが出来る作戦として、リディアも意を汲んで欲しい。そう願った。
「え、いりませんよ。ソレがいいので、さっさと返してください」
「……」
地位も名誉もプレゼントさえも興味がないなんて。
何故肝心のリディアからは興味を持たれないのか、彼の幼い恋心は僅かに仄暗い影が射しつつあった。