満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜

過去⑥

 妃教育の試験が終了した次の日の事。
 シオンはエヴァンス公爵邸へとやって来た。

 試験が終わってここぞとばかりに羽を伸ばそうと、ダラダラしたい一心のリディアだったが、シオンが来る前に侍女達の手で入念に粧し込まれていた。

 シオンが案内されたのは邸内のサロン。
 ちなみにフェリアもこの場に来たがったが、今はサロンに近づく事を禁じられている。


 双子窓から暖かな光が差し込む、二人きりの広いサロンで、長椅子に座って向かい合う。爽やかな窓外の景色を背景に、腕と足を組むシオンは何だか偉そうなオーラを放っている。若干見下されている気がするのは、リディアの気のせいだろうか。

「リディア、婚約者候補のお妃教育ごっこは終わりだ」
「へ?あ、ああ……。そうで……」

「そうですか」と最後まで言う暇も与えて貰えず、シオンが会話を被せて来る。

「僕の正式な婚約者はお前に決まったから、これからは未来の国母として、真面目にみっちり勉強しろよ」
「え」

 言い放たれる言葉に、リディアは思考も身体もピタリと停止した。

「拒否権はないからな。くれぐれも、手を抜くなよ。今迄の妃教育のようにな」

 目が全く笑っていない。

(えっ、怖っ!!)

 もしや、自分が殿下の婚約者に決まってしまった事が不満なのだろうか?私だって別に選ばれたかった訳じゃない。と思ったが当然、そんな事を言える空気ではなかった。

 実に分かりづらい、シオンからのリディアへの求婚であった。むしろほぼ脅しといって過言ではない。

 こうして無事(?)リディアは王太子の婚約者に正式に決まった。
 この後もシオンは、リディアへの想いを更に拗らせていく事になる。


 **

 半年間の妃教育が終わると共に、シオンとリディアの婚約が正式に発表された。
 真面目さを持ち合わせつつ、力の抜きどころを心得ているリディアは、ある意味妃に向いていると言えた。

 現に未だ社交界では、リディアが面倒くさがりで常に楽をしようとする性格であることは、誰にもバレていない。

 ちなみに候補者達が受けていた妃教育は、選ばれなかった場合の縁談に響かないよう、元々短期間と決められていた。
 正式な婚約者に選ばれなくとも、王宮で高度な教育を受ける事や、頻繁に登城の機会を許されるのは貴族社会ではとても有利な事。

 そしてカタリーナは妃教育で王宮や図書館へと、頻繁に足を運んでいたのがきっかけで、ブランジェ公爵家の嫡男であり、シオンの一つ違いの従兄弟セスに見初められていた。
 この一週間後、カタリーナはセスから直々に求婚される事となる。


 **


 幼少の頃より散々拗らせてきたシオンは、昔から執拗にリディアを視線で追い回していた。本人にはバレないよう、密かに。

 それと同時に、魔術師としての才能が開花した事も相まって、気付けばリディアの持つ魔力の気配を完全に把握するまでになっていた。

 お陰で子供の頃、隠れんぼで一緒に遊んでいても、シオンはすぐにリディアを見つける事が出来た。

 毎回何処に隠れても見つかるので、リディアは憤慨するという、実に子供らしい一面をシオンには見せていた。
 大人しそうな見た目と大人びた雰囲気に反して、実は中々活発な内面を持ち合わせるリディア。
 悔しそうに自分に感情をぶつけてくるリディアも、シオンにとって可愛くて仕方がない。



 これらの経緯から、魔法でウサギに姿を変えられようが、彼はリディアの魔力を感じ取り、すぐに正体に気付く事が出来たのだ。
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