満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜

礼拝堂にて

「人間の姿に戻すタイミングは、僕に任せて欲しい」

 これは確かに、シオンがリディアに向けて言った言葉。




 この日。会議のために登城した貴族達が集められたのは、会議用のホールではなく、何故か礼拝堂であった。

 高い天井には宗教画が描かれており、正面には王家の家紋。そしてその前には、精緻な装飾が施された祭壇が置かれている。

 何故礼拝堂なのか。疑問を抱えたまま人々の視線は、祭壇の前に立つ王太子、シオンへと注がれる。

 そしてもう一つ大きな謎がある。
 シオンが、何故かウサギを抱っこしているという事。何故ウサギ?

 その時。人々の声を代弁するかのように、シオンの眼鏡を掛けた側近、ロレンスが声をあげた。

「殿下、会議にペットのウサギを連れてくる事は、禁止と申し上げたはずですが?」
「煩い、お前は黙っていろ」

 シオンがピシャリと言い放つと同時に、ペット呼ばわりされて腹を立てたリディアも、ロレンスに対して威嚇した。ウサギの立派な前歯を剥き出しにして。

「今日は皆に話さねばならない事がある」


 音が響くよう作られた礼拝堂の中で、シオンの落ちついた声が響き渡る。

「実は先日、遠い大陸からやってきた性悪の魔女と一悶着あってな、その時に一緒にいた我が婚約者リディアが、ウサギの姿に変えられてしまった……」

「まさか……」と誰かが呟き、皆の視線は一斉にシオンの抱くウサギリディアへと注がれた。

 ちなみに正確には、遠い大陸からやって来た魔女ではなく、近所の公爵邸からやってきたフェリアだが。

「私は戦いの末、その魔女を追い払うことに成功したのだが、リディアが未だこのように、ウサギのままなのだ」

 やはりシオンの抱くウサギはエヴァンス公爵令嬢、リディアなのだと分かった瞬間人々は一斉に狼狽した。


「なっ、殿下、そのウサギがリディア嬢だと仰られるのですか!?」
「何と!?」


 未来の王太子妃リディアが、ウサギの姿に変えられたまま戻らない。その絶望的な状況に対し、怒りを露わにする者、嘆く者。そして悲しむフリをして喜ぶ者と、実に様々な反応をそれぞれが見せる。
 混乱が起きる中、シオンが静まるよう促すと、一同は騒めく心を抱えながら口を噤んだ。
 そして再びシオンが語り始める。

「私はここ数日、寝ずにこの呪いの解き方を研究していた」

(嘘ですコイツ、めっちゃ寝てました!夜も寝るし、たまに昼寝もしてました!)

 実はシオンに、魔法で喋れるようにしてもらっているリディアは、この時ツッコミたくて堪らなかった。

「そしてついに、解き方を発見する事が出来た」

 シオンが言い放つと同時に、一斉に歓喜の声が湧き上がる。
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