満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜

美味しくないです

　私は薔薇のアーチをくぐり、迷路のような複雑な作りとなっている薔薇園に逃げ込んだ。

　夜の薔薇園ならそこまで警備もおらず、人気がないので安全性も高めだろう。

　なんせ今はウサギの姿なのだ。
　見つかったら摘みだされるか、もしくは……。

（食べられるかもしれない！？）

　ウサギのパイに、ウサギのシチューに、ウサギのロースト。トマトやワインで煮込まれたり、焼かれたり、塩胡椒やハーブを揉み込まれたり。

　私の脳内には、あらゆるウサギ料理が駆け巡っていた。

（やっぱり、町に出てしまった方が食べられる確率は上がるわよね……。けど王宮なら、その辺にいるウサギをすぐに捌くなんて事はしないはず……。多分……）

　子供の頃から頻繁に訪れ、慣れ親しんだ王宮。庭園も城内も構造が把握できている分、外に出るよりよっぽど安全だろう。

　生存率を考えると、町よりも王宮内。
　どうにかして人間の姿に戻るには、まず生き抜く事を考えないといけない。

（今後お腹が減るだろうし、いざとなったら厨房で食べ物をこっそり取ってくるとか……晩餐の後で良かったわ）

　今日は遅い時間まで王宮にいたので、晩餐もご馳走になっていた。
　取り敢えず薔薇園の中にある、四阿の椅子に飛び乗り、しばらくここで休ませて貰う事にした。