満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜

なんじゃこりゃ!?

 幼少時は木登りをしたり、かなりお転婆な遊びが好きな私だった。それでも親の言う事はよく聞き、妹にとっては良き姉であろうと努めていた。

 それが遅れてきたイヤイヤ期の如く、意固地になって珍しく口答えしてしまったのが、王太子殿下だなんて。

(あの時は私の方が大人になって、空気を読んであげたら良かったわね)

 そんな上から目線の事を考えながら、改めて執務机を見渡す。

 よく見ると、見覚えのある品は、リボンだけではなかった。リボンが結ばれているペンも、周りが金で縁取られた透明な飾りケースに入れられた、カフスやタイピン。それらはシオン殿下の誕生日などに、私が贈った品々だった。

 私が贈った物は一度も使っていたり、着けたところを見た事がなかったから、きっと気に入らなかったのだろうと判断していた。私も特にその事について、触れたりしなかった。

 それがこんな所に飾り立てられていたとは、知る由も無い。

 相変わらず行動が、よく分からない王子である。几帳面な殿下がその辺に、書いたポエムなどを放置している筈もなく、私の探索は終了した。

(流石に引き出しを漁るなんてマネは出来ないわね。あ、そもそも今ウサギの手だから、引き出しを開ける事が出来ないわ。物理的に)

 仮に人間の姿でも、引き出しは開けないけど。

 私は乗っていた椅子から飛び降り、寝台の方へと渡り歩く。

 リネンの良い香りがする、肌触りが最高なお布団。ここで、しばしお昼寝タイムとする事にしよう。

 寝台にウサギの身体を、目一杯伸ばして寛げた私は、再び考えを巡らせていた。
 よくよく考えれば、ウサギというのは草を食べなければいけないという事以外、特に何も不自由はない。
 この生活。煩わしい人間関係や、お妃教育から解放されて、むしろ快適なのではないか。

 しかも、王子様に王宮で飼われるペット。想像した事がある人も、少なくはないはず。お金持ちに飼われる、快適なペット生活を。

(って、私はペットじゃない!!)

 私はゴロンと横になると、広々とした寝台を贅沢に使って、お昼寝をする事にした。やっぱり幸せ。

 **


 微睡み中のウサギである私の頭や背中を、誰かの手が優しく撫でた気がした。

 重い瞼を持ち上げると、室内にはシオン殿下の姿がある。
 私の昼寝中に会議は終わり、殿下は戻ってきていたようだ。寝ていて気付かなかった。

 ぼんやりと、シオン殿下の黒髪と背中を眺める。殿下は私に背を向けて、壁端にある本棚で何かしていた。きっと何かの本を探しているのだろう。そう思った瞬間。
 シオン殿下は、一冊の本を手にすると、それを手前に引いた。すると……。

 ズズズ……と音を響かせながら、重い本棚が横にスライドし、なんと隠された部屋の入り口が姿を現した。

(何それ!!??)

 驚きつつも、隠し部屋に入っていく殿下の後を、こっそりと追う事にした。隠し部屋に行こうというのに、隠しきれない私の好奇心。

 ウサギダッシュで、殿下の真後ろまで来た私は、ワクワクしながら秘密のお部屋へとお邪魔した。

 しかし私はすぐに、隠し部屋に入ってしまった事を激しく後悔する事になった。

 室内には、びっしりと壁全面に、私の肖像画が飾り付けられていた。

(ひえええ!?なんっじゃこりゃーーーー!!!)
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