【電子書籍・コミカライズ決定】イケオジ王弟殿下との白い結婚〜君を愛するつもりはないと言われましたが、なぜか旦那様は過保護に溺愛してきます〜
ようやく私の髪から手を離したジェラルド様は、まっすぐに立って私を見下ろしてきた。
片方の唇だけつり上げたその表情は、きっと困惑を押し隠しているからに違いない。
でも、この表情も好き。困ってしまうくらい大好きだ。心臓を仕留められているのは、私のほうに違いないのに。
「……せっかくの朝食が冷めてしまう。飲み物は何が良い?」
「……ジェラルド様と同じが良いです」
「……私は、朝はブラックコーヒーなのだが」
「それが良いです」
ブラックコーヒーなんて、淑女が飲むものではない、と周囲に言われていたので、私がいつも飲んでいたのは紅茶だ。
もちろん、紅茶はいろいろな香りがあって好きだけれど……。
それでも、ジェラルド様は、ブラックコーヒーなんて私にふさわしくないとは、絶対に言わないに違いない。そんなことを思いながら上目遣いにジェラルド様を見上げる。
「そうか」
そのあとは、黙ったままジェラルド様が、手ずからコーヒーを淹れてくれた。
ナッツみたいな香りに隠れて、少しだけ華やかな花みたいな香りがするそれを口にする。
「…………」
甘そうな香りに反して、思ったよりも苦くて、固まったままカップを見つめる。
チラリ、と見ればジェラルド様は、優雅に香りを楽しんでカップを傾けているようだ。
喉仏が上下するのを眺める。こんなにコーヒーが似合う人を私は他に知らない。