1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

 想像とまったく違った。
 義両親はアリアにどんどん料理を進めてくるし、ふたりとも笑顔でアリアの話を聞いてくれるし、何より驚いたのは息子への愚痴だ。


「ごめんなさいね、アリアさん。フィリクスの噂のせいで嫌な思いをされているでしょう?」

 義母の言葉に、アリアは紅茶を飲む手を止めた。

「噂、ですか?」
 と控えめに訊ねる。

 すると、義父がため息まじりに答えた。


「フィリクスには他に好いている女がいるという噂だよ。本当に申しわけない」
「いいえ、それは私も存じておりますので、気にしていませんわ」
「え? 気にしてない……」
「あ、そうではなくて。上級貴族には愛人のひとりやふたり、いても不思議ではないですからね」

 新婚なのに旦那に他の女の噂があることをまったく気にしない嫁だなんて思われたら変だ。
 と思って当たり障りのないことを言ったのに、義両親は感激の表情をした。


「アリアさんはなんて心が広いのでしょう! うちの愚息が本当にごめんなさい!」
「えっ……」

 義母が涙ながらに話す。


「私たちはなかなか子に恵まれず、フィリクスは結婚10年目にやっと授かった子なの。だから、私たちはあまりにも甘やかしてしまってこんなことに……」
「本当は純粋で真面目な子なんだ。今はよその女性に目が行っているが、ほんの勘違いだと思うから、どうか見限らないでほしい。息子は必ずあなたのところへ戻ってくるはずだから」

 義両親は必死に訴える。


「だ、大丈夫です」

 だって1年後に離婚しますから。
 なんて言えない。


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