1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「あの、ジタール卿。私はアトラーシュ侯爵の妻で……」
「知っています。だが、あなたの夫はよそに心が向いている。私はあなたの悲しい顔は見たくないのです」
「先ほども申しましたように、夫との関係に何も問題はありませんわ。噂はあくまで噂に過ぎないのです」
「しかし……」
ジタール卿がアリアの手を強く握りしめる。
アリアにはその手を振りほどくことができずに困った。
そうしていたら、思わぬことが起こったのだ。
「アリア」
ふわっと肩を抱かれたかと思うと、いきなりフィリクスの腕に抱き寄せられたのだった。
「えっ……?」
フィリクスの香水がかすかに香る。
それほど近くに顔を寄せたことなど、今までに一度もない。
「ジタール卿、彼女は僕の妻です。あまり馴れ馴れしくされると困るのですが」
めずらしく、フィリクスの低い声を聞いた。
まるで静かな怒りが込められているような声音だった。
アリアは混乱する。
一体、どうなっているの?