1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「そうか、うん……まあ、少々複雑でもあるが、君が了承してくれてありがたいよ」
「そうでしょう。ですから、侯爵さまは心置きなく愛する女性のことだけを考えていてくださいね。あ、もちろん社交の場ではきちんと妻の演技はいたしますから、ご心配には及びませんわ」
「そうか、それはありがたいな」
呆気にとられる侯爵を横目に、アリアはベッドから降りてショールを羽織った。
「さて、では私はこれで失礼したいと思います」
「え!?」
「だって、白い結婚なのに寝室をともにすることなどできないでしょう?」
「あ、いや……今夜は結婚式の日だから、別々に寝るのは使用人たちが不審がるだろう」
「そうですか。では私は隣室のソファで寝ましょうか」
「それなら僕がそうしよう。君はベッドを使ってくれ」
真顔でフィリクスを見ていたアリアはぱあぁっと表情を輝かせた。
「いいんですかあ? それじゃ、遠慮なく! あ、侯爵さまはどうぞソファで寝てください」
「ええっ!?」
「だって、あなたがそう言ったんでしょ?」
「う、ん。まあ、そうだな」
たじたじのフィリクスに対し、アリアはにっこりと笑顔で返す。
「今日はお疲れでございましょう。それではおやすみなさいませ、旦那さま!」
「お、おやすみ」
フィリクスを隣室に追いやると、アリアはパタンと寝室の扉を閉めた。
そして、タタタッと小走りに駆けてそのままベッドにダイブした。
「やったあああっ!」
思わず声を上げてしまい、すぐさま黙る。
だが、にやけるのが止まらなアリアはシーツに顔を押しつけて「くくくっ!」と笑った。