1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

「そうだな。僕が悪かった。忘れてくれ。もう君と寝室をともにするなどとは言わないよ」

 そう言って、アリアの部屋を出ていった。
 誰もいない廊下にひとりで突っ立って、ひたすら深いため息を漏らす。


 自分はなんと愚かなことをしているのだろう。
 今さら妻の心を得ようなどと、虫のいい話だ。

 このまま約束どおり1年後に離縁するのが一番いい。
 しかし、どうしてこれほどの衝撃を受けているのだろうか。

 メアリーに振られてしまったときよりも、妻のアリアに振られたことのほうがショックが大きい。


 やはり、メアリーに言われたとおり、すべては勘違いだったのか。
 あれは愛情ではなく同情だったのか。

 では、アリアに対する気持ちは一体何だろう?


 フィリクスは成人して爵位を継承したにもかかわらず、まさか色恋沙汰でこれほど悩むことになるとは思わなかったのである。

 今、自分にできることは、誠心誠意、妻に尽くすことかもしれない。
 彼女が1年後に別れるという日まで。



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