1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

 ああ、この胸の高鳴りは何だろうか。
 初めて感じる思いだ。


「今夜の君はさぞかし映えるだろうね」
「そうでしょうか。ありがとうございます」

 相変わらず冷たい返答だったが、フィリクスは嬉しかった。
 パーティが楽しみだと言うと、アリアは思いがけない反応をした。


「嬉しいですわ。旦那さま!」

 アリアの眩しい笑顔。
 これほどの笑顔を見たことがあるだろうか。
 喜びと同時に、深い後悔の念がわく。

 この笑顔を奪ったのは自分なのに。


 パーティ会場では、アリアは立派な妻を演じていた。
 フィリクスのとなりにいて、笑顔で挨拶をしてまわった。

 フィリクスにもこれが彼女の演技だとわかっている。
 わかってはいるが、フィリクスは嬉しかった。
 心の底から妻のことを自信を持って周囲に紹介した。

 できればこのままずっと、アリアとこうしていたいと思った。
 だが、1年という期限を決めたのは自分だ。
 責任を取らなければならない。


 勘違いとは言え、他の女に目を向けているあいだ、アリアはしっかり家のことや両親のことを気遣ってくれた。 
 今度は自分だ。
 たとえ今後、アリアが思いを寄せる男ができたとしても、快く許そうと思っていた。

 それなのに、気持ちと行動が真逆だった。


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