1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「それは(偽りの)夫婦としての活動の一部ですか?」
アリアはすぐさま冷静に返した。
「うん、まあ……そうなるかな」
「構いませんよ。書物を持っていってもいいなら」
「もちろんだ。別荘地での読書は最高だと思うよ」
アトラーシュ侯爵家の別荘は自然豊かな森の湖畔に佇んでいる。
鳥の声を聞きながら、テラスで紅茶を飲み、大自然の中で読書をする。
想像するだけでも素晴らしい。
「いいですね。私の時間を確保していただけるなら。夫婦としての活動はともに買い物に出かける程度で構いませんよね?」
「ああ、そうだね」
まあ、この程度なら悪くないだろう。
体裁も保てるし、同じ場所にいようともお互いに趣味を楽しんでいるということで、周囲に怪しまれることもない。
屋敷にいるばかりでは気分も滅入ってしまうし、というほどストレスはないのだけど。
「いいですわ。旅行しましょ、旦那さま」
すると、フィリクスはアリアの手を握って歓喜の表情を見せた。
しかし、喜んでいるのはフィリクスだけではなかった。
「アリアさん、新婚旅行をされるんですって?」
義両親とアフタヌーンティーを楽しんでいたところ、突如その話を持ち出された。
ただの旅行なのだが、新婚だからそうなるのか。
アリアは複雑な気分になった。