1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
それから数日間。
アリアは別荘のテラスで森の風景を楽しみながら紅茶を飲み、読書をしながら静かに過ごすという計画が、一度も果たされなかった。
なぜならずっと、フィリクスと一緒にいたからである。
この日は町で祭りがあり、ふたりは日が暮れるまで屋台の並ぶ人の多い場所にいた。祭りでは酒や食事が振る舞われ、市場の中心では楽団による演奏会や、観劇が披露され、町の人々で賑わっていた。
はしゃぎ過ぎたせいだろう。
アリアは足を痛めてしまった。
「少しここで待ってて。何か冷たい飲み物をもらってこよう」
「ありがとうございます」
フィリクスが離れると、アリアは噴水のそばに腰を下ろした。
周囲は酒に酔った大人たちと、騒ぐ子供たちで溢れている。
日が沈み、空に星が見え始める。
夜を迎えようとしても今日ばかりは町は賑やかで、人々が家路につく様子は見られない。
フィリクスはどこまで飲み物を探しに行ったのか戻ってこない。
アリアはぼんやりと目の前を通り過ぎていく人々を眺めて、ふと思った。
これからも、フィリクスとこんなふうに過ごしても、悪くないかなあなんて。
そんなとき、顔だちの整った若い男がアリアに声をかけた。
「お嬢さん、おひとりですか? よかったらこれから食事でもいかがですか?」