1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

「な、何だよ……侯爵なら侯爵らしくしておけよ。身なりが貧相なんだよ、くそっ!」

 男は逃げるように走り去ってしまった。
 しばらくして、フィリクスは怒りの形相から急に困惑の表情に変わった。


「僕はそんなに貧相なのだろうか?」
「え? そこ? いや……今日は目立たないように控えめにしているので。というより、あんな奴のことなんて気にしなくていいですわ」
「そうだな。それよりアリア、君は無事か? どこか怪我をしてはいないか?」
「平気ですわ。ありがとうございます」
「遅くなってすまなかった。珍しい果実酒が手に入ったんだ。ぜひ、君にと思っていたんだけど、全部無駄にしてしまった。ああ、つい心の底から腹が立ってしまって、冷静さを欠いてしまったんだ。許してくれるかい?」

 あからさまに落ち込むフィリクスを見て、アリアはおかしくなって笑った。

 本当に、なんて素直な人。
 相手の脅しに怯むどころか、目の前の妻を全力で助けるなんて。


「許すも何も、あなたは最高ですわ。旦那さま」

 本心から出た言葉だった。
 けれど、それが彼を好きだという感情かどうかは、まだわからない。
 


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