1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

「お姉ちゃん、ちょっとふたりきりで話がしたいんだけど」

 3日目の昼食を終えた頃のこと。
 ミラベルがアリアを貴賓室に呼びつけたのである。
 使用人も下がらせて、ふたりだけで大切な話をするというのだ。

 嫌な予感がした。
 そして、その予感は的中したのである。
 

「フィリクスさまって噂と違って、とてもしっかりしていらっしゃるのね」

 アリアは冷静に「そうね」と返事をした。
 すると、ミラベルはにっこりと満面の笑みを浮かべたあと、半眼でアリアを見据えて言った。


「そうそう。フィリクスさまには愛人がいて、お姉ちゃんはもうすぐ離婚するのよね?」

 アリアはぴくっと眉をひそめる。
 どこでその情報が漏れたのだろうか。
 フィリクスに愛人がいるという噂があったのはわかるが、1年で妻と離縁することはふたりだけの話だったはず。


「旦那さまがあなたにそう言ったのかしら?」
「違うわ。使用人たちが話しているのを立ち聞きしただけよ。でも、フィリクスさまは愛人とは上手くいっていなくて、そのうち別れるっていう噂も聞いたの。でも、お姉ちゃんたちは離婚するんでしょ」


 使用人にもれていたのね、とアリアは嘆息した。
 まあ、この屋敷で話していれば、誰かに聞かれることはあるかもしれない。
 特に侍女のユリアはそういったことに敏感だから。




< 53 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop