1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「あははは。旦那さまは本当に、仕方のない人ですわ」
アリアは声を出して笑う。
フィリクスはしばし呆然としていたが、使用人たちがクスクス笑っているのを見て、それから侍女のユリアの呆れたような笑顔を見るとハッとした。
フィリクスはアリアに駆け寄り、恐る恐るアリアのお腹に手を触れた。
「子がいるのかい?」
「そうですよ、旦那さま。あなたは父親になるのです」
「そ、そうか……すごいな。ぜんぜん、実感がわかない」
「それはそうでしょう。今知ったばかりなのですから」
フィリクスは涙目になりながら、アリアをそっと抱きしめた。
「旦那さま?」
「ああ、今日はなんて素晴らしい結婚記念日だろう。アリア、僕は一生、君と子供を大切にしよう」
「ええ、そうしてください」
「今日は最良の日だな」
「その言葉は生まれた日に言ってくださいね」
「ああ、そうだ。気が早いな。君が無事にその日を迎えられるように、僕は全力で助けになろう」
アリアはフィリクスの背中に腕をまわして、ふたりでそっと抱き合った。
「十分ですわ。旦那さまはいつも助けてくださるもの」
アリアを窮屈な実家から救い出してくれただけでなく、これまで経験したことのない幸せを与えてくれたのだ。
これから一体どんな幸せがあるというのか。これ以上、望むことはないほどなのに。
フィリクスといると、贅沢になってしまう。