1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「まあ、お美しいですわ。奥さま!」
たっぷり時間をかけて仕上がった自分の姿を鏡で見ると、アリアは不思議な気持ちになった。
「パーティにでも行くのかしら? というほど着飾るのねえ」
アリアは感嘆のため息をついた。
「奥様でいらっしゃいますから。それに……」
「それに?」
途中で言葉を遮った侍女に向かってアリアは首を傾げながら訊ねる。
すると、侍女は涙ながらに言った。
「あんな旦那さまに嫁いでくださるなんて、奥さまは神さまです!」
アリアは驚いて「へ?」と間抜けな声を発した。
「あんなって……」
「もう私たち心配で心配で! 本当に平民の子を迎えられるのかとひやひやしましたわ」
「そ、そう……」
「私は長く侯爵家に勤めておりますけれど、旦那さまは本当に真面目で純粋で、あまりにも世間知らずというか、そのせいで今まで色恋沙汰に恵まれることはなかったのです。だから平民の女に騙されてしまったのですわ。お可哀想な旦那さま。その優しさにつけ込まれたにきまっています」
酷く落胆しながらも侯爵をべた褒めする侍女を見て、アリアはどう反応したらいいかわからなくなった。