1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「そんなことより奥さま!」
「そんなこと……」
直前まで嘆いていたくせに急にけろりと話題を変える侍女に戸惑うアリア。
「お父さまとお母さまが別邸からいらっしゃいますわ。朝食をともにしたいとのことでございます」
「そ、それを早く言ってよ!」
アリアにとって夫のフィリクスがどこで愛人と遊んでいようがどうでもよかった。
肝心なのはフィリクスの両親との関係である。
聞けばフィリクスの両親はふたりとも非常に気難しい性格らしい。
社交界ではほとんどの家門から恐れられている。
父のほうは先見の明があり、数々の事業に成功しているツワモノ。
自分も甘い汁をすすりたいと思うあまり彼にすり寄る貴族も多い。
母のほうは人を見る目が厳しく、お世辞やこびへつらう者を嫌う。
そして弱々しくて誰かに守られてばかりの者も嫌う。
ふたりとも、ひとり息子の嫁には大変厳しい条件をつけている、と噂で耳にした。
嫁いびりをされることは目に見えている。
「すべて事前に調査済よ。さあ、行くわよ!」
気に入られる必要はない。
たった1年、耐えればいいだけ。
それなら、堂々と自分らしく振る舞っていればいいのだ。