幼馴染みとの契約交際が溺愛必須に変更されました。
注文したコーヒーをそれぞれ一口飲んでから、先に話題を出したのは、私の方だった。
「ん?」
「お正月、帰ってこなかったじゃない」
「ああ。クリスマス前からイギリスに出張だったんだよ」
「やっぱり、忙しそうね」
倫之は昔、決して勉強ができるタイプではなかった。けれど中学のある時期から一念発起したらしく、高校時代には定期テストの上位グループの常連にまでなった。特に英語は、成績は言うに及ばず、ネイティブの先生も舌を巻くほどの会話力をも身につけた。
そうして難関と呼ばれる国立大学に進み、今では、海外に複数の支社を持つ総合商社に勤めていると聞く。
「そう言う由梨は? 会計事務所、事務でも大変だろ」
「……そうでもないわよ。六年も勤めれば慣れるし」
三人いる会計士のうち、二人はまあ普通なのだけど、残る一人は少々くせ者だった。もともとは個人経営だった事務所で、仕事が増えたために会計士も増やしたのが合同事務所の始まりだ。件の一人は、元いた会計士先生の娘さんで、それを鼻にかけて他の先生にも私たち事務にも、やたらと偉そうにふるまう。かろうじてパワハラではない、といったレベルで。