Beautiful moon
『ねぇ、あなた知ってる?これは夢だって自覚して見る夢のことを、”明晰夢”って言うんですって』
『!』

今まさに頭に浮かんだ疑問に答えるような回答に驚く。

『あ、先に言っておくけど、私、あなたの心の中を読めるわけじゃないから。ただあなたって驚くほど素直で、心の声が表情や態度に駄々洩れてしまってるから』

言いながらゆっくりと、こちらに向かって歩き出す。

『最もここがあなたの夢の中だから…っていうのも、多少は関係あるかもしれないけど』

ネモフィラの花が、彼女の歩く道筋を作るように広がり、そこが自然と通路になる。


『木崎…木崎美園さん、よね?』


5m程近くまで来て立ち止まり、名前を呼ばれた。

後ずさろうにも足が鉛のように重く、全く動かない。

『透の元教え子で、さっきまで彼に……』

何故か、言葉の先を濁す。

その言葉から彼女はもう既に、私と先生の間に起きた出来事を知っているようだった。

淡々と、怒りとも悲しみともとれる表情を浮かべそう言うと、次に悟ったように続ける。

『…あなたなら、私が誰かわかるでしょう?』

この夢が自分の夢であるなら、目覚めれば良いだけだ。

必死に意識を操作して、ここから逃れるための努力をしてみる。
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