Beautiful moon
⑤ 明晰夢(夕暮れの海岸)
『…海?』
目の前には、真っ白な砂浜と、透明度の高い遠浅のラグーンが続く浜辺。
時刻は間もなく夕刻なのか、水平線の上に見える陽はだいぶ傾いている。
『恋人達が愛を語らうには、絶好の場所でしょう?』
気付けば、すぐそばの砂浜に洒落た木製の長椅子が置かれ、その一端に美月さんが座っていた。
白いワンピースはそのままで、あらわになっていた肩には同色の薄手のカーディガンが羽織られ、どちらも陽にあたって淡いオレンジ色に見える。
『この海岸も、透との思い出の場所なの』
まっすぐ水平線に向かっている視線は、やはり過ぎ去った当時を懐かしむような眼差し。
私はこうして、美月さんと先生の在りし日の思い出の地を巡り、二人しか知らない話を永遠に聞かされるのだろうか。
そう小さく息をつくと
『こんな話を聞かされるのは辛いかな』
また心を読まれたかのようなタイミングで聞かれ、すぐに『いえ』と返答。
気分など良いわけないけれど、彼女が今から何を語ろうと、私はすべて受け止めなければいけない。
その覚悟はとうにできていた。
『…あなたって』
『はい?』
『本当に真面目な子ね』
『どういう意味ですか』
『これも全部、自分への戒めだと思っているのでしょう?』
呆れた風な口調で言い当てられ、ギクリとする。
『私の心は読めないんじゃ…』
『あら、別に読んでなんかいないわよ?ただあなたって、とてもわかり易いんだもの』
まるで思考回路が単純だと言われたようで、少しムッとくるも、こちらは悟られないように押し黙る。