Beautiful moon
『私が大学を卒業した後、この浜辺で初めて告白されて、それから正式に付き合うことにはなったんだけど…』

何かを思い出したのか、美月さんはまたおかしそうに笑う。

『何ですか?』
『これがまた、困ったことに全く進展しなくてね…手を繋ぐまで1ヶ月、キスまで3ヶ月。最後までは…あ、1年近くかかったかも』
『大事にされてた…っていう見方もありますけど』
『うん、そうかもしれない。でも今思えば、透からの告白を待ったりしないで、もっと早くに交際して、もっとたくさん愛し合っていれば良かったって思う』

小さな間の後『…こうなるって、わかってたらね』と独り言のように呟く。

その悲しそうに微笑む美月さんを直視できずに、視線を海へと移した。

沈みかけの夕陽が反射してキラキラと揺らめく水面を眺めながら、自分の犯した罪の重さに、押しつぶされそうになる。

やはりこれは、戒めなのだろうか。

深く愛し合う二人の間に割って入った、不善な行為への贖罪か。

目の前に広がる美しい情景の中で、自分一人が酷く穢れたものに感じて、どうにも逃げ出したくなる。

『そういえば…ねぇ美園さん』

名を呼ばれて、美月さんをみれば、彼女は肘掛けに片肘をかけてこちらを見、何故か悪戯そうな目を向ける。

『透、最中にココ、噛んだでしょう?』

言いながら、美月さんは自分の首の付け根あたりに指をさす。

それは唐突に、なんの包みもなくストレートに投げかけられた質問だったけれど、明らかに先生と自分との不貞を示唆したもので、咄嗟に自分の首筋を手で抑えてしまった。

『あれって最初はちょっと痛いけど、彼すぐにそこを舐めて痛みを和らげてくれるから、むしろ気持ち良いのよね』

彼女の言葉で、首筋に噛みつかれた時の記憶が鮮明に思い出された。

言葉通りに肯定もできずに、その質問の意図を考えあぐね、押し黙ってしまう。

それはある意味、先生が私を、美月さんだと疑わずに抱いた証であり、逆を正せば私は彼女の代わりでしかなかった証拠でもある。
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