Beautiful moon
先生の心の中に、今もずっと美月さんがいるとわかっていても、衝動を抑えられなかった自分。

許しを請うつもりなど毛頭ない。

あんなふうに苦しそうに、亡き美月さんを探し求める先生を、ほんの僅かな時間でも救いたかったのなど、こんなこと言い訳にしか聞こえなかったとしても。

そう開き直ってしまえば、ずっと燻っていた彼女への思いも、ついには溢れ出てしまう。

『…どうして』

美月さんの手を払い、彼女の方に向き直ると、今度はこちらから美月さんに訴える。

『どうして、せめて夢の中にも現れてあげないんですか?』
『…』
『先生、言ってました。ずっとあなたに逢いたいって、夢の中でも良いのにって。凄く苦しそうに、何度も何度も…』

あの時、バーの窓ガラスの向こう側、地上の遥か向こうに見えた、小さな月を見上げながら、幾度となく囁くように呟いていた。


”俺はね、どんな形でも良いから、たった一度で良い…美月にもう一度逢いたいんだ”


繰り返す先生の、その低く、切なくも熱い言葉が耳に残って離れない。

なんの予兆もなく、突然の事故によって奪われた最愛の恋人。

幻想の中でも構わないからと、それほどまでに、美月さんを探し求めていた。

『こんな、私の夢なんかより、先生の夢に』

彼女を見据えて強く訴えれば、美月さんは黙ったままゆっくり瞬きをすると、スッと椅子から立ち上がり、こちらに背を向けたまま、波打ち際へと近づいた。
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