Beautiful moon
そこは、離れて見ていた時にはわからなかったけれど、直径10mほど草木を刈ってできた広場の中心に、高さ50センチ程度の丸い円形のレンガで囲われた花壇があり、そこにいくつもの葉を茂らせた月下美人の茎が、真っ直ぐ空に向かって伸びていた。

積まれたレンガの高さ分があるにしても、裕に自分の身長を軽く越しているその丈の高さに驚いて、頭上に伸びるその茎の先を見上げる。

『大きなものは3mくらいになるんですって』
『…そんなに』
『一輪がこんなに大きいのだもの、栄養がそれだけ必要なのかもしれない』

美月さんは花壇に近づくと、その高く伸びる茎と葉の間で、白く大きな花を咲かせている月下美人の前に立つ。

その花は想像していたものより遥かに大きく、いくつもの白い花びらがふわりと丸みを帯びて広がり、ズシリとした存在感は見ている誰しもを魅了する。

『この花はね、月夜の晩にたった数時間しか咲かない花なんですって。この美しい姿から、”美人薄命”っていう意味もあるらしいの』

フッと笑い、こちらを振り返り

『ねぇ?まさに、私のことみたいでしょう?』

可愛らしく、人差し指を頬につける。

『それ自分で言います?』
『ふふ…言っちゃった』
『洒落になってないですし』
『あ〜そこは笑ってもらわないと』

この人は、こちらの気持ちなどお構い無しで、返答に困ることを言う。

『美園さんって、ホント真面目ねぇ』

彼女は楽しそうに笑いながら、もう一度目の前の花に向き直ると、更に一歩花に近づいた。
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