Beautiful moon
『本当はね、香りもとても強くて素敵なのだけど、ここ(夢)じゃ、伝わらないね』
生前に嗅いだことがあるのだろうその香りを思い出しているのか、手を伸ばし愛おしそうに花びらに軽く触れてみる。
それは真綿に触れるよう、そっと優しく厳かに。
まるで、何かの儀式のよう。
ふいに蒼い月明かりの中、彼女の透き通るような白い指先と月下美人の淡い花びらの色が重なり、同化してしまうような錯覚に陥る。
瞬間ドキリと胸が鳴り
『美月さんっ』
思わず上げた声が、深夜の澄んだ空気を割くように響いた。
名を呼ばれた当の本人は、キョトンとした表情で私の方を振り返る。
『あ、あの…ここも先生との思い出があるんですよね』
咄嗟に浮かんだ質問を口にすれば、直ぐに微笑みを返される。
『そうよ。ここはね、透にプロポーズされた場所なの。もっとも、場所はある日突然サプライズで連れて行かれたから、正確には知らないのだけど』
美月さんは徐ろに左の手のひらを裏返すと、そこにはさっきまではなかった、小さなダイヤが埋め込まれた銀色の指輪が光っていた。
『綺麗でしょう?エンゲージも兼ねた”結婚指輪”なの』
言いながら自らの指にはめたリングを、月の光に掲げる。
ほんの少し緩く滑らかな曲線のついたプラチナリング。
それは、ダイヤこそ付いていなかったものの、昨夜のバーで先生がつけていた指輪とお揃いのものだと直ぐにわかった。
贅沢はせず二人の新しい生活を優先する意味で、あえてエンゲージではなく兼ねたものをと、先生が選んでくれたものなのだと嬉しそうに話す。
生前に嗅いだことがあるのだろうその香りを思い出しているのか、手を伸ばし愛おしそうに花びらに軽く触れてみる。
それは真綿に触れるよう、そっと優しく厳かに。
まるで、何かの儀式のよう。
ふいに蒼い月明かりの中、彼女の透き通るような白い指先と月下美人の淡い花びらの色が重なり、同化してしまうような錯覚に陥る。
瞬間ドキリと胸が鳴り
『美月さんっ』
思わず上げた声が、深夜の澄んだ空気を割くように響いた。
名を呼ばれた当の本人は、キョトンとした表情で私の方を振り返る。
『あ、あの…ここも先生との思い出があるんですよね』
咄嗟に浮かんだ質問を口にすれば、直ぐに微笑みを返される。
『そうよ。ここはね、透にプロポーズされた場所なの。もっとも、場所はある日突然サプライズで連れて行かれたから、正確には知らないのだけど』
美月さんは徐ろに左の手のひらを裏返すと、そこにはさっきまではなかった、小さなダイヤが埋め込まれた銀色の指輪が光っていた。
『綺麗でしょう?エンゲージも兼ねた”結婚指輪”なの』
言いながら自らの指にはめたリングを、月の光に掲げる。
ほんの少し緩く滑らかな曲線のついたプラチナリング。
それは、ダイヤこそ付いていなかったものの、昨夜のバーで先生がつけていた指輪とお揃いのものだと直ぐにわかった。
贅沢はせず二人の新しい生活を優先する意味で、あえてエンゲージではなく兼ねたものをと、先生が選んでくれたものなのだと嬉しそうに話す。