Beautiful moon
『ある晩に透が突然うちにやってきてね、今から連れていきたい場所があるからって。珍しく真剣な顔で、ここに着くまでの間一言も話さないし、もしかしたら別れ話でもされるのかなって、不安に思ってたら…』


”美月、俺とこれから先の人生、ずっと一緒にいてほしい”


蒼い月明かりの元、奇跡的に咲いた一輪の月下美人の前で、そう告げられたのだと彼女は話す。

『ベタなセリフだったけど、嬉しかったなぁ…』

指輪を見つめたまま、その瞬間を思い出しながら柔らかな笑みでつぶやく美月さんは、月光を浴びて神がかった美しさで、その横顔は幸せに満ち溢れていた。


…敵わない。


敵うわけなどあるはずがない。

先生と美月さん、二人がどれほどの時間を共有し、互いに想い愛し合っていたのか。

その想いがこんなにも深く痛いほどに伝わってきて、二人を引き裂いた残酷な運命を前に、どうすることもできない自分がもどかしい。

…なぜ、私はここにいるのだろう?

美月さんはどうして私の夢に現れたの?

彼女が、先生と無理やり関係を持った私への嫉妬や怒りの感情をぶつけるためではないことは充分に伝わってきた。

だったらどうして…。

『――”どうして、私の夢に現れたの?”』
『!』

いつの間にか足元に落ちてしまっていた視線を上げれば、美月さんはまっすぐに私を見据えていた。
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