Beautiful moon
『そう思っているのでしょう?』

また私の表情を読み取って、心の声を反芻したのだろう。

今度は否定をする気にもならず、肯定の意味も含めた沈黙で、知りたかった彼女のその答えを待ってみる。

月に薄雲がかかり、一瞬月明かりが緩むものの徐々に雲が晴れれば、眩しいほどの月光が、再び彼女の美しい輪郭を映し出す。

『美園さん』

闇夜に、彼女の澄んだ声音が響く。

『あなたにお願いしたいことがあるの』

一旦言葉を区切り、呼吸を整えるような小さな間の後

『あなたに、彼を…透を救ってほしい』

淀みのないハッキリとした口調で、そう口にする。

予想を反した彼女の願いに、面食らう。

『先生を…救う?』
『そう、私の代わりに。この先…できれば生涯をかけて、透のそばにいてあげてほしいの』
『な…』

何を馬鹿な…と言いかけて、彼女の真っ直ぐな視線から、これが嘘や冗談ではないことを悟る。

美月さんの表情からは笑みが封印され、今は刹那いほど懇願するような眼差しで、こちらを見つめていた。

『ずっと、どうしたら透を救えるのか、そればかり考えてた。透が周りに心配かけまいと普通を装って毎日を過ごしている中で、本当はどんな瞬間も私のことを忘れることができずに、何年経っても…そうね、まるで呪いのように現世にはいない私を求めて…そんな苦しんでいる姿を見るのが辛くて…』

下ろした両手を強く組み合わせ、ギュッと何かを堪えるように続ける。
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