Beautiful moon
『だから美園さん、お願い』
握りしめた手は、白く透明に透けたように血の気が失せ、その力強さを強調する。
頭上には変わらず強い光を放つフルムーン。
シンと研ぎ澄まされた世界の真ん中で、降り注ぐその月光が、頭に浮かぶいくつかの雑念や不安を洗い流して行くよう。
そうして祈るような眼差しで私を見つめ続ける彼女の、その胸に組んだ手が、かすかに震えているのに気がついた時
”あぁ、もうこれは覚悟するしかない”
自分の中でカチリと何かが嵌った気がした。
『…酷ですね』
脳裏に浮かぶ渦中の人を思い浮かべ、フッと小さく息を吐く。
『あなたを、深く愛したままの先生のそばにいて欲しいなんて』
『ええ…確かにそうね。とても酷いことをお願いしているのはわかってる、でも』
『言っておきますけど、あなたの代わりになるつもりはありませんから』
『え?』
『私は、”私”として先生のそばにいます』
しっかりと正面から彼女をみつめた。
そして、闇夜に響くように、大きくハッキリとした声で答える。
『私が美月さんの分まで、先生と共に生きます』
他に愛する人がいる人と…なんて、言葉に出した瞬間もっと迷いや後悔が出るのかと思ったけれど、意外にもそうではない自分に少し驚く。
それよりも、その”愛する人”を前にして、”共に生きる”なんて大口を叩いてしまった自分が恥ずかしくなった。