Beautiful moon
『あ〜…えっと、今のは少し言い過ぎました、第一先生の気持ちを考えずに』

最後まで言い終わらないうちに、自分より少し小柄な彼女が私に飛びつき、その腕を私の首に回しギュッと抱きしめられる。

『ちょっと、何するんですか』
『だって嬉しいんだもの』

小さく細い肩を掴み引きはがすと、その顔は本来の彼女らしい綿菓子のような笑顔に戻っていた。

『本当にありがとう』

ホッとしたような、それでいて少し悲しそうにも見える彼女の表情に胸が詰まる。

どれだけ深い先生への想いが、彼女をここまで衝き動かしたのだろう。

慈愛にも近しいほどに無償の愛情。

その課せられた荷の重さに、今更ながらに怖くなる。

『きっと嫌な思いもたくさんさせてしまうかもしれない』
『その分良い思いもたくさんさせてもらいます』

虚勢を張った私の言葉に、美月さんの頬が優しく緩む。

『透の私に対する想いは、結構根深いわよ』
『望むところです。その方が落としがいがありますから』
『ふふ…言うわね』
『美月さんの方こそ、私と先生が上手くいっても、化けて出たりしないでくださいよ』
『そんなことしないわよ。あ、それよりも二人の子供として生まれ変わって会いに行こうかしら』
『ソレ冗談ですよね?』
『もちろん本気よ』
『やめてください、悪趣味にも程があります』
『あら良いじゃない、そしたら二人にたっぷり愛情を注いでもらえそうだもの』

互いに深刻になりすぎないよう、軽口を叩くような会話を続ける。

不思議とそうしていなければ、泣き出してしまいそうな気がしたから…。
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