Beautiful moon


『そろそろ夜が明けるわね』

美月さんの言葉に、彼女の視線の先を望めば、そちらがおそらく東の方角にあたるのだろう。

茂る森の境界線あたりが、薄っすらと明るくなってきたような気がする。

『いい加減あなたを戻らせなきゃ、本当に戻れなくっちゃう』

時間の経過が現実の世界とどこかで繋がっているのか、自然とこの世界の終わりを感じていた。

凪いでいた風が、再びそよそよと吹き始め、頬に当たれば冷たく感じる。

いよいよ現実との境界が曖昧になってきたのかもしれない。

『美園さん』

彼女は私の正面に立つと、私の手を取り、両手でふわりと包み込む。

『透のことお願いします』

引き継がれた想いを胸に、空いていたもう片方の手を美月さんの手の甲に重ねる。

言葉にすれば陳腐に聞こえる気がして、ただ黙って頷いた。

それに不思議とそういうことはもう、言葉にしなくとも彼女には伝わる気がしていたから。

『ここでの話を、透や他の誰かに話す話さないはあなたの自由よ。もっとも夢の中の話を信じてもらえるかはわからないけれど』

確かに逢ったこともない人が夢に出てきた話など、誰が信じるだろう。

しかも無くなった元恋人に、残された恋人を託された、などという突拍子も無い話を。

『別に話すつもりはありません。ただそれよりも、現実に戻ってあの状況下で、先生がすんなり私を受け入れてくれるかどうか…ですけどね』
『そこは大丈夫。透なら、あなたさえ黙っていれば、彼の方から責任を取るって言うはずよ』
『責任って、私そんなつもりじゃ』
『でも計算はしていたでしょう?』

やはり、美月さんはいともたやすく私の心を見透かしてしまう。
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