Beautiful moon
★
先生の名は、香坂 透(こうさか とおる)
高校時代、2年から3年までの2年間、現代国語の教諭であり、私にとっては3年時のクラス担任でもあった。
確か当時、27歳だと言っていたので、今は33か4くらいか。
マッチ棒のようなシュッとした歩き方も、前髪を中央で分けた髪型も、ひと回り近く年下の私にも威圧感ゼロのフランクな話し方も、あの頃と何も変わっていない。
見た目で違うとしたら、授業中に必ずしていた黒い太枠の眼鏡をかけていないところと、当時も高身長でほっそりしていたけれど、更にほっそり痩せてみえるとこだけだ。
『ご注文はいかがなさいますか?』
万が一にも、同窓生とかち合ってはマズイと、さっきいた駅から5つほど隣の駅まで移動して連れて行ったお店は、駅前の半地下にある、落ち着いたバー。
店内は適度に薄暗く、会話を邪魔しない程度の音量で流れる曲は、古い洋楽のようで、今日の気分的にはちょうど良かった。
『僕はジントニック、彼女は…』
『ソルクバーノで』
『かしこまりました』
注文を終え、店員が下がると、先生はなぜか声を潜めて可笑しそうに笑う。
『何ですか?』
『いや…あの木崎が、普通に洒落たカクテルを頼んだりするからさ』
『失礼な。25にもなれば、このくらい普通ですよ』
『そうか…木崎達はまだ25か』
先生が眩しいものを見るように目を細める。
先生の名は、香坂 透(こうさか とおる)
高校時代、2年から3年までの2年間、現代国語の教諭であり、私にとっては3年時のクラス担任でもあった。
確か当時、27歳だと言っていたので、今は33か4くらいか。
マッチ棒のようなシュッとした歩き方も、前髪を中央で分けた髪型も、ひと回り近く年下の私にも威圧感ゼロのフランクな話し方も、あの頃と何も変わっていない。
見た目で違うとしたら、授業中に必ずしていた黒い太枠の眼鏡をかけていないところと、当時も高身長でほっそりしていたけれど、更にほっそり痩せてみえるとこだけだ。
『ご注文はいかがなさいますか?』
万が一にも、同窓生とかち合ってはマズイと、さっきいた駅から5つほど隣の駅まで移動して連れて行ったお店は、駅前の半地下にある、落ち着いたバー。
店内は適度に薄暗く、会話を邪魔しない程度の音量で流れる曲は、古い洋楽のようで、今日の気分的にはちょうど良かった。
『僕はジントニック、彼女は…』
『ソルクバーノで』
『かしこまりました』
注文を終え、店員が下がると、先生はなぜか声を潜めて可笑しそうに笑う。
『何ですか?』
『いや…あの木崎が、普通に洒落たカクテルを頼んだりするからさ』
『失礼な。25にもなれば、このくらい普通ですよ』
『そうか…木崎達はまだ25か』
先生が眩しいものを見るように目を細める。