Beautiful moon
『教え子にバーに連れてこられるとは、想像してなかったから驚いた。せいぜい駅前の居酒屋あたりかと思ってたからさ』
『年上の男性を落とすには、ムーディーなバーかと思いまして』
『ほぅ、この俺を落とそうと?』
『先生?実はこのバー、上はホテルだって気付きました?』

テーブルの上で片肘を付き、出来る限りの甘めボイスで呟くと、先生はまた笑う。

『今のセリフ、俺が後5歳若かったら、ドキッとしてたな』

何てこと無くサラリとかわされ『他の男の前では簡単に使うなよ』と、教師の顔で叱られる。

バーテンのいるカウンターの反対側、通常より高い、天井まで続くガラス窓沿いに設置されたテーブルと高めのスツール。

何気なくそのガラス面に映る自分達を見れば、周りからは比較的大人っぽいと言われている私でされ、先生との年の差を感じてしまう。

黒っぽいチノ系のパンツに、濃灰色の麻地でできたシャツ。

運ばれてきたカクテルを口に運ぶ時、その腕にしている重厚なメタル系の腕時計。

その一つ一つが、あの頃に増して、グッと大人の魅力が増している。
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