【書籍化】「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「なぜ……」

 驚き唖然として言った私の小さなつぶやきに、彼は苦笑して顔を近づけた。

「雇い立ての使用人には、困ってしまうよ。少々お金を払われたからと、仕えている主人の夜の事情まで簡単に流してしまうとは。僕も注意しなくては……まあ、名ばかりの新興貴族は、信用ある人間を集めるのも大変だから……同情するよ」

 この人……ロッソ邸に雇った使用人から、私たちの情報を買っていたんだ。どうしてあの時に教えてくれたジャスティナの話を聞いて、私は気がつかなかったんだろう。

 求婚しようとする相手を、精神的に追い詰め自分の思いどおりにしようとする人が、簡単に諦めてくれるはずなんてないのに。

 貴族になったばかりのシリルは仕方ないとしても、生来貴族として育てられた私は、こういう時の対処も学んでいるはずだから、今私は何の言い訳も出来ない。

 確かに目の前の人のせいで、精神的にまいっていたことは認めるけど……すべてはロッソ邸の女主人として、使用人を管理出来てない私の責任だった。

「ああ。そうだ。ロッソ公爵夫人。君に会えたら、聞こう聞こうと思っていたことがあるんだけど……」

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