【書籍化】「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「……貴方との結婚式のドレスも、この前に注文した、シリルが私にと買ってくれたものを着るわ。あれが、とても好きだもの……結婚した妻という役目さえ果たせば、あとは好きにさせてもらう。だって、私が本当に好きなのはシリルだもの……っ」

 シリルの隣で、あのドレスが着たかった。けど、出来ないなら、ドレスだけでもあのドレスで嫁ぎたかった。

 力も何もない自分のせいで何も出来なくて本当に情けなくて、気がつけば頬にはいく筋も涙がこぼれていた。

「っ……フィオナ」

 エミリオ・ヴェルデは怒っているのか、困っているのか、よくわからない青い顔をしていた。

 こんな私を思い通りにしたいと、無関係な人たちまで巻き込んだくせに。

「……私の名前を気安く、呼ばないで! それは私のことを何より大事にしてくれる両親が名付けてくれた、大事な名前なのよ。私のことを大切にしてくれる人にしか、呼ばれたくない……貴方になんか、絶対に呼ばれたくない!」

 しんとした地下室に、私の涙ながらの叫びが響いていた。

 みっともない? なんだって好きなように、言えば良い。

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